あなたの職場に、障害のある同僚はいますか。大きな企業に勤めているのに、ひとりも見当たらない。
そんな場合、あなたの職場は法に定められた義務を果たしていないのかもしれません。
今回の特集テーマは「障害者雇用」。
一定の規模がある民間企業や国・地方自治体などの事業主は「障害者雇用促進法」に基づき、従業員の一定割合以上の身体・知的・精神障害者を雇うことが義務付けられています。
義務なので、守らずにいると厚生労働省による勧告や企業名公表といった事態に至ることも。
今年(18年)4月、精神障害者の雇用が義務化されました。
今回の義務化で変わったのは、この「従業員の一定割合」にあたる「法定雇用率」。
法定雇用率は「なんとなく」決まっているものではなく、以下の算定方法で決まっています。
義務化でこの式に精神障害者も加えられたことにより、民間企業の法定雇用率は2.0%から2.2%に引き上げられたのです。
(なお、これまでも精神障害のある人は雇用されてきました。ですが、義務ではなかったので、雇用した場合は義務対象の身体もしくは知的障害者を雇用したとみなす扱いになっていました。)
今後、法定雇用率はさらなる引き上げも決まっており、働く障害者はますます増えていくと見込まれます。
ですが、民間企業においては課題もあります。
法定雇用率が上がっている一方、対象企業のうち、法定雇用率を達成した企業は昨年ようやく半数になったというレベルなのです。
平成29年障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)に基づき編集部作成。
そこで今回の特集では、「なぜ企業での障害者雇用が進まないのか」について、当事者はもちろんのこと、企業、労働局、障害のある人向けの転職支援サービス会社や学校の担当者、福祉の現場で働く人々、研究者、保護者などにも取材。
ステークホルダーごとにどのような問題があるのかを記事化しました。
記事化に際し意識したのは、雇用が進まない原因は当事者の「障害特性」ではなく、それぞれのステークホルダーに雇用促進を阻む障壁があるという考えです。
実際、取材を通して各ステークホルダーが課題や問題を抱えていることがわかりました。
「障害者雇用」とひとくちに言いますが、就職に至るルートは無数にあります。
当事者が直接応募して企業に採用されることもありますし、学校経由、ハローワークや民間の人材紹介サービスを利用しての就職、福祉サービスを利用する事業所で訓練を積んで就職することもあります。
それを示したのが下の図です。
無数にあるルートのうち、主なルートと、そこに関わるステークホルダーを図示しました。
「対象企業の半数が法定雇用率を達成できていない」。こう聞くと、企業だけに責任があるように感じます。
ですが、取材を通して各ステークホルダーが問題を抱えていることがわかりました。
また、ステークホルダーごとに問題を細分化し構造化していくと、そこにあるのは意識改革や工夫で解決できる問題でした。
障害のある人とともに働く人はもちろん、それ以外の人々も自分の立ち位置でなにができるか。
そんな点も意識しつつ「障害者雇用」について構造化し、記事化しました。
当事者自身も千差万別で、障害種別やその程度はもちろん、先天的なのか事故などで後天的に障害を負ったのか、障害があることを就職先に明らかにしてるかどうかなど様々です。
今回の特集では、精神障害のある人を中心にみていくことにしました。
なぜ精神障害者を中心に見ていくか。今年4月の義務化がひとつの理由ですが、もうひとつの理由として、求職・求人市場の現状があります。
下記グラフのように、企業で働いているのは圧倒的に身体障害のある人です。
平成29年障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)に基づき編集部作成。
ですが、2016年度ハローワークを通じた就職件数を見てみると、精神障害者が最も多く、4万1367件(前年度比7.7%増)。
次いで多いのが身体障害者の2万6940件ですが、前年度比で33.8%減となっています。知的障害者は2万342件(前年度比1.9%増)。
精神障害のある人の就職件数は近年増加傾向。
働ける身体障害の人の多くはすでに雇用されているとみられていることもあり、関係者は、今後新たに雇用される人は、精神障害のある人が中心になると見込んでいます。
つまり、これからあなたの職場で障害のある人が新メンバーとなるとき、精神障害のある人の可能性は高いのです。
そんなまだ見ぬ同僚とともに働く未来を考えつつ、特集を読んでもらえればと考えています。
第1章は「働くを考える」。
第一回【「自分の能力を試したい」。障害者が語る働くことの意義】では、そもそもなぜ障害のある人が働くということ、中でも企業で働くということを考える必要があるのかを取り上げました。前述のように、企業も障害のある人を雇用する義務があります。ですが「義務だから」で終えるのではなく、「働く」とは何かを考えることを通して、障害者雇用を進めていくべき理由を探ります。
第2章では「企業」にフォーカス。
第二回【「無知」「偏見」が阻む障害者の企業への就職】では、「うちでは障害者を雇えないよ」といった声がなぜ企業から上がり、障害のある人が門前払いされてしまうのかを見ていきます。
第三回は【障害者の4割が1年以内に離職という現実。企業に求められる意識改革とは】。雇った人がすぐ辞めてしまう——。そんな企業には「近所のおばちゃん」的存在が必要なのかもしれません。
第3章では「福祉の現場」を見ていきます。
第四回【働くための能力とは? 障害者の「能力開発」の現場における課題】では、障害者の能力開発を行う福祉事業所の抱える問題点を見ていきます。福祉のプロ集団であるがゆえの問題というものがありました。
第五回は【福祉の世界に「囲い込まれ」、就職できない障害者たち】。最近、大量解雇や破産といったニュースで「就労継続支援A型事業所」といった名称を見たことはありませんか。
第4章は「橋渡し」。
第六回【「企業」と「福祉事業所」をつなぐ組織の問題点】では、これまでみてきた「企業」と「福祉の現場」の橋渡しをできるのはだれなのかについて考えます。
第5章「当事者」がテーマ。
第七回【「失敗するチャンスが欲しい」。障害者が働くイメージを作るのに必要なこととは】。「障害特性」を障害者雇用の障壁とはみなさないと説明しましたが、それ以外の点で当事者が考えるべきことがありました。
第八回【家族の理解が支える、障害のある人の「働く」】。「障害者のいちばんの敵は親と教師」。こんな言葉、聞いたことがありますか。どうしてそんな言葉があるのでしょうか。
第6章は「社会」について。
第九回【家族の理解が支える、障害のある人の「働く」】。第二回【「無知」「偏見」が阻む障害者の企業への就職】で紹介した「無知」「偏見」の問題は企業だけでなく、社会にあります。また、今すぐ私たちにできる「障害者雇用」を促進するための取り組みがありました。
※また、「障がい者」は「障害者」と表記します。「障がい者」という表記の場合、音声読み上げソフト等で読み上げる際、「さわりがいしゃ」と読み上げられる場合があります。そのため、音声読み上げを利用される方のアクセシビリティに配慮して「障害者」という表記を利用します。