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    • 「小児性犯罪」加害者臨床の現場から 後編を公開

      「加害・被害を防ぐには?“包括的性教育”が与える影響——『小児性犯罪』加害者臨床の現場から(後編)」を公開しました。「性の教科書はAVでした」と語る、ある少年事件の加害者。加害・被害を防ぐアプローチの一つである包括的性教育の重要性に迫ります。記事はこちらから。

      2024/4/16(火)
公開日: 2024/4/16(火)

加害・被害を防ぐには?“包括的性教育”が与える影響——「小児性犯罪」加害者臨床の現場から(後編)

公開日: 2024/4/16(火)
公開日: 2024/4/16(火)

加害・被害を防ぐには?“包括的性教育”が与える影響——「小児性犯罪」加害者臨床の現場から(後編)

公開日: 2024/4/16(火)
オーディオブック(ベータ版)

性の教科書はAVでした」「性的同意についてちゃんと学んでいたら、今回の事件は起こさなかったかもしれません」——。

 

これは、ある少年事件の加害者が初めて“包括的性教育プログラム”に触れたときの言葉だ。これまでに200人以上の小児性犯罪者の再犯防止プログラムに携わってきた斉藤章佳さん(大船榎本クリニック精神保健福祉部長/精神保健福祉士・社会福祉士)は、「最初の加害を起こさせないためには、アプローチの一つとして包括的性教育が重要です」と語る。

 

加害の手口や背景に迫った前編「1人の加害者から複数の被害者が…。発覚しづらい子どもへの性加害」に続き、後編では加害・被害を防ぐために必要なことについて、リディラバジャーナル編集長の安部敏樹が聞いた。

 

 

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症をはじめギャンブル、薬物、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニア(窃盗症)などあらゆる依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在までに2500人以上の性犯罪者、200人以上の小児性犯罪者の治療に関わる。『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)ほか著書多数。

「学ばせてほしい」
加害者も求める包括的性教育

安部

ここからは加害・被害を防ぐ方法についてお聞きできればと思います。

 

まず加害者側のお話としては「初めての加害行為をどう防ぐか」というのが重要な点だと思いますが、どのような対策が考えられますか?

 

 

 斉藤 
一般論として加害者の最初の加害行為(たとえば初犯)を防ぐのは難しく、再犯は専門的なプログラムを継続的に受講することである程度防ぐことができると考えられています。

 

ただ、初犯に対して全くのお手上げ状態というわけではありません。いま注目されているアプローチの一つが包括的性教育(※)です。

 

※編集注)包括的性教育:身体や生殖の仕組みだけでなく、ジェンダー平等、性の多様性、人間関係などを含む人権尊重を基盤とした性教育のこと。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」でも包括的性教育の考え方や進め方が示されている。

 

私たちのクリニックでも2022年9月から加害者の再犯防止プログラムの一環として包括的性教育を取り入れています。「性的同意は世界を救う」というコンセプトで、助産師の櫻井裕子氏に協力を仰ぎながら実施しています。これは私自身が以前から必要だと考えていた取り組みです。

 

安部

なぜ必要と感じられたのか、詳しくお聞きしても良いですか。

 

 斉藤 
はい。私は性非行少年に対する治療的アプローチを行うこともあるのですが、たとえば、少年鑑別所で彼らに会うときはまずしっかりと関係を築くことが大切だと考えています。その次に「包括的性教育を一緒に学ぼう」というステップに移行していきます。

 

性的同意や性的自己決定権、性交同意年齢やプライベートゾーンなどについて教えていくのですが、多くの加害児童が「初めて聞いた」「親や学校からも教わらなかった」と言うんです。なかには「もしちゃんとこのことを学んでいたら、今回の事件を起こさなかったかもしれない。もっと早く知りたかった」という加害児童もいました。

 

このときに、初犯を防ぐためには包括的性教育が重要だと直感で思いました。

 

安部

なるほど。

 

 斉藤 
また、再犯防止プログラムにも包括的性教育は必要だと思っています。

 

私たちのクリニックで実施しているプログラムは成人向けですが、加害者側から「私にとって性の教科書はAVだった。もっとしっかり学んでみたい」という要望が多数あがったんです

 

プログラムに参加している大多数の人が、性は汚いもの、隠すべきもの、恥ずべきものと教えられ、十分な学習機会に恵まれてこなかったのだと感じています。

 

このプログラムでは女性の生理や妊娠・出産、コンドームの正しい使用方法などの教育的な内容をはじめ、性について学ぶのは相手の健康を考え、人権を尊重する行為であるということを学びます。

 

参加者は10人程度で、これまでのところ受講を続けている対象者の中に再犯した人はいません。もちろんこの結果から「包括的性教育を受けることで再犯率が下がる」とは安易に断言できません。効果検証についてはもっと大規模に行う必要があると思っています。

 

ただ、治療に対する内発的動機付け(※)が高まったということは言えます。多くの人が「このプログラムには絶対に出たい」と言っており、治療への取り組みや通院を継続する意欲が向上しています

 

※斉藤さん注)内発的動機付け:内的で本質的な欲求によって引き起こされる行動のこと。言い換えると、個人の行動の要因となる、内面から湧き上がる動機づけ (モチベーション) のことをいう。このプログラムの場合、モチベーションは、報酬や称賛など、外部からの誘因(外発的動機付け)に関係なく、自分自身からのみ発生している。

 

私のいまの実感としては「包括的性教育が性犯罪の再犯率を下げるかはまだわからないが、加害者の治療への積極性を高める効果は十分にある」というところです。

 

性を学ぶことが、加害を明らかにすること、身を守ることにつながる

安部

もう一つお聞きしたいのは「初めての加害行為から逮捕されるまでの時間をどう短縮できるか」という点です。

 

前編でお話ししたように、子どもを狙った性犯罪は発覚しづらい。この期間を短くすることが新たな加害や被害を減らすことにつながると思うのですが。

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リディラバジャーナル編集部。「社会課題を、みんなのものに」をスローガンに、2018年からリディラバジャーナルを運営。
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