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      2024/10/30(水)
公開日: 2020/8/6(木)

産後の苦しい実態――産後うつを知っていますか?(前編)

公開日: 2020/8/6(木)
公開日: 2020/8/6(木)

産後の苦しい実態――産後うつを知っていますか?(前編)

公開日: 2020/8/6(木)

「日本は、妊婦や乳児へのケアについては非常に手厚い公的支援が用意されています。一方、産後の女性へのケアは、ほぼ本人任せという状況です。出産後の心と体のダメージが長引くことで、産後うつ病(以下、産後うつ)をはじめ、虐待や夫婦不和など、さまざまな社会問題につながっています」

 

こう語るのは、NPO法人マドレボニータ代表の吉岡マコさんだ。

 

吉岡さんは、大学院生だった25歳のときに出産。「産後の体がこんなにつらいなんて誰も教えてくれなかった!」と衝撃を受けたという。

 

以降、産後ケアプログラムの普及や産前・産後ケアの調査・研究などの取り組みを続けている。

 

どうして産後にうつになるのか、周囲にはどんなサポートが求められているのか。前編では、吉岡さんの20年間の活動から見えてきた、産後うつの特徴と課題について聞いていく。

 

※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた6/12のライブ勉強会「自殺する母たち〜産後うつを知っていますか?〜」の内容をもとに記事化した前編です。

 

<吉岡マコさん>
1996年東京大学文学部卒業後、同大学院で運動生理学を学ぶ。1998 年自らの出産を機に、産前・産後に特化したヘルスケアプログラムを開発。2008 年NPO 法人マドレボニータを設立。指導者の養成・認定制度を整備。(マドレボニータHP

楽しみにしていた子育てが苦痛に変わってしまう

出産直後の女性は、心身の変化から不安定になるリスクを抱えている。産後うつの罹患率は、およそ11人に1人(厚生労働省平成25年度)。決して少ないとは言えない数字だ。

 

産後うつとは、分娩後の3ヵ月以内に急激に発症するうつ病のことをいう。赤ちゃんが可愛いと思えない、何をやっても楽しくない、落ち込みから抜け出せない、疲れているのに眠れない、涙が出てくる……などの訴えが2週間以上〜数ヵ月後まで続く。

 

自分を傷つけたい、死んでしまいたいと思うこともある。

 

2018年に発表された厚生労働省研究班の調査によると、産後1年までに起きた妊産婦の主な死因のうち1位は、病気でも事故でもなく「自殺」だった。

 

2015〜16年の2年間で102人。うち91人が出産後の自殺で、35歳以上や初産の割合が高かった。産後うつが原因の一つと考えられている。

 

子育てに不安を覚えるのは男性も同じ。出産によって生活環境が変わることで、男性やパートナーにも産後うつリスクがあると言われている。

産後がこんなにつらいなんて…

吉岡さんも、産後のダメージに苦しんだ経験を持つ。1998年3月に出産し、非婚のまま母親となった。当時は大学院生で、運動生理学を学んでいた。

 

(ZOOMにてお話いただいた吉岡さん)

 

「よく高齢出産になるとしんどいと言われますが、当時25歳の私でも体がしんどくて、ボロボロになりました。体のことを学んでいたはずなのに、産後の体がどうなるのか全く知らなかった。母子手帳にも書いていない、産前の母親学級でも習わない。学ぶ機会がなかったことにも愕然としました」

 

産後の女性にとって、非常に重要な時期とされるのが「産褥期(さんじょくき)」だという。これは妊娠や分娩でダメージを受けた体が回復するまでの期間を指す。

 

赤ちゃんが生まれたあと、実は、もう一度陣痛が来るということをご存知だろうか。

 

子宮に残った胎盤を排泄するため後陣痛というものが起こり、その後、悪露(オロ)と呼ばれる子宮からの分泌物が約4〜6週間かけて排出されるという。母乳の分泌も始まる。

 

通常、約8週間過ぎると体が回復し、外出も可能とされる。しかし、産後十分な休養ができずに体調が悪化してしまう女性もいる。睡眠不足や疲労が蓄積し、外出もままならず、社会的孤立が深まっていく。

 

さらに、いろんなつらさをパートナーと共有できていないことで、パートナーとの関係もぎくしゃくしてしまうことがある。

 

(スライド画像は吉岡さん提供)

 

吉岡さんはこう話す。

 

「『母親なら育児はできて当たり前』という母性神話に、今なお多くの女性たちが苦しめられているのだと思います。お母さんになったんだから、『頑張らなくちゃ』と、生まれた直後から頑張ろうとしてしまう。フラフラな状態で子育てをしている人が、あまりにも多すぎるのです。追い詰められないわけがありません」

産後の三大危機とは?

吉岡さんは、20年間にわたり、産後ケアの重要性を訴えてきた。

 

体の回復のための有酸素運動と、産後の生活で失われがちな大人同士のコミュニケーションを取り戻すという「産後ケアプログラム」を立ち上げ、多くの女性と関わってきた。

 

そのなかで気づいたのは、産後うつ未満の女性がとても多いことだ。

 

(スライド画像は吉岡さん提供)

 

マドレボニータには次のような声が寄せられているという。

 

「子どもを守れる自信がなく、子どもと2人になるのが怖かった」

「パートナーが仕事で楽しそうにしていることに嫉妬。自己嫌悪した」

「子どもにどうして泣き止まないの!と泣きながら怒鳴った」

「周囲の言葉やイメージがプレッシャーに感じた。幸せだと思えない自分は母親に向いていないと感じ、今が可愛い時期ねという言葉にさえ、絶望的な気持ちになった」

 

こうした実態について、吉岡さんは次のように語る。

 

「産後うつ未満である女性の訴えは、産後うつと診断された女性の症状と驚くほど似ています。産後うつと診断されれば、服薬しないといけない、仕事復帰できなくなるかもしれない、子どもと離れることになるかもと思う。そんな女性たちの不安が、受診を拒んでいるのかもしれません。実際に苦しんでいる女性の数は、産後うつとして明らかになっている人数よりも、もっと多いように感じています」

 

マドレボニータでは、産後の3大危機として「母体の危機」「赤ちゃんの危機」「夫婦の危機」を挙げている。

 

(スライド画像は吉岡さん提供)

 

「一般的に、産後うつは精神的なものというイメージが強いと思います。しかし、実態調査を進めると、産後のさまざまな不調は気持ちだけでなく、体 = フィジカルと密接に関わってくることがわかってきました」と吉岡さんは明かす。

 

「たとえば風邪をひいたときに、気分が落ち込むことは誰にでもあると思います。出産後のヘトヘトな状態で、育児も家事も一人で抱え込むのは到底無理なのです。体を休め充電する時間や、体を動かしてリハビリする時間も必要です。十分なケアと支援が必要なのだという理解を広めたい」

 

ホルモンのアンバランスの影響だけではない。慢性的な睡眠不足、疲労、母親としてのプレッシャーやストレス、孤立感など、産後うつの発症にはさまざまなものが影響する。

 

また「赤ちゃんの危機」「夫婦の危機」については次のように説明する。

 

「マドレボニータの調査でも虐待はしていないけれど、してしまいそうになる不安を覚えたことがあると答えた産後女性の割合は約49%。産後に離婚したいと思ったことがある割合は58%に上っています」

 

こうした危機は、産後ケアがしっかりできていれば防げるのではないか。そう吉岡さんは考えている。

 

「妊娠・出産する女性だけが知っていても変われません。個人の問題としてではなく、社会問題として捉えられることと、周囲の理解と協力のもと、産後の回復に専念できる環境作りが求められています」

 

 

・・・後編「社会が産後ケアに取り組むと何が変わるのか――産後うつを知っていますか?」に続く

 

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CONTENTS
intro
ホームレス
no.
1
no.
2
若年介護
no.
3
no.
4
奨学金
no.
5
no.
6
差別
no.
7
no.
8
観光
no.
9
no.
10
子どもの臓器提供
no.
11
no.
12
都市とコロナ
no.
13
no.
14
ICT教育
no.
15
no.
16
産後うつ
no.
17
no.
18
宇宙
no.
19
no.
20
戦争
no.
21
no.
22
人工妊娠中絶
no.
23
no.
24
緊急避妊薬
no.
25
no.
26
テロリスト・ギャングの社会復帰
no.
27
no.
28
社会起業家
no.
29
no.
30
海上自衛隊
no.
31
no.
32
プロジェクト
no.
33
ソーシャルビジネス
no.
34
教員の多忙化
no.
35
no.
36
性的マイノリティ
no.
37
no.
38
出所者の社会復帰
no.
39
no.
40
ワクチン
no.
41
no.
42
薬物依存
no.
43
no.
44
性の悩み
no.
45
no.
46
リブランディング
no.
47
no.
48
少年犯罪
no.
49
no.
50
学校教育
no.
51
no.
52
LGBT
no.
53
no.
54
スロージャーナリズム
no.
55
no.
56
ソーシャルセクター
no.
57
no.
58
教育格差
no.
59
no.
60
メディア
no.
61
大人の学び
no.
62
no.
63
地方創生
no.
64
no.
65
家族のかたち
no.
66
no.
67
他者とのコミュニケーションを考える
no.
68
no.
69
地方創生
no.
70
no.
71
地方創生
no.
72
no.
73
非正規雇用と貧困
no.
74
no.
75
他者とのコミュニケーションを考える
no.
76
no.
77
家族のかたち
no.
78
no.
79
他者とのコミュニケーションを考える
no.
80
no.
81
地球温暖化対策
no.
82
no.
83
就労支援
no.
84
no.
85
1年の振り返り
no.
86
no.
87
動物との共生
no.
88
no.
89
行政のデジタル化
no.
90
no.
91
温暖化対策
no.
92
no.
93
動物との共生
no.
94
no.
95
地方移住
no.
96
no.
97
動物との共生
no.
98
no.
99
温暖化対策
no.
100
no.
101
組織論
no.
102
no.
103
キャリア
no.
104
no.
105
復興
no.
106
no.
107
コミュニティナース
no.
108
no.
109
MaaS
no.
110
no.
111
地球温暖化
no.
112
セックスワーカー
no.
113
no.
114
感染症とワクチン
no.
115
no.
116
大学生の貧困
no.
117
no.
118
温暖化対策
no.
119
no.
120
同性婚
no.
121
no.
122
フェアトレード
no.
123
no.
124
シェアハウス
no.
125
no.
126
飲食業
no.
127
感染症とワクチン
no.
128
no.
129
国際報道
no.
130
no.
131
社会的養護
no.
132
no.
133
認知症
no.
134
no.
135
入管法
no.
136
no.
137
国際問題
no.
138
no.
139
コミュニティ
no.
140
no.
141
コミュニティ
no.
142
no.
143
コミュニティ
no.
144
no.
145
吃音
no.
146
no.
147
コンサル×社会課題解決
no.
148
no.
149
いじめ
no.
150
no.
151
社会課題×事業
no.
152
no.
153
社会課題×映画
no.
154
no.
155
感染症とワクチン
no.
156
no.
157
社会教育士
no.
158
no.
159
山岳遭難
no.
160
no.
161
支援者支援
no.
162
no.
163
いじめ
no.
164
no.
165
ゲーム依存
no.
166
no.
167
トランスジェンダーとスポーツ
no.
168
no.
169
うつ病患者の家族
no.
170
no.
171
パラスポーツ
no.
172
no.
173
代替肉
no.
174
no.
175
弱いロボット
no.
176
no.
177
戦争継承
no.
178
no.
179
女性の社会参画
no.
180
no.
181
子どもの居場所
no.
182
no.
183
感染症とワクチン
no.
184
no.
185
デジタル社会
no.
186
no.
187
若年女性の生きづらさ
no.
188
no.
189
ゼブラ企業
no.
190
no.
191
多胎児家庭の困難
no.
192
no.
193
ソーシャルイノベーション
no.
194
no.
195
ジェンダー
no.
196
no.
197
毒親
no.
198
no.
199
葬儀
no.
200
no.
201
感染症とワクチン
no.
202
no.
203
子どもの安全
no.
204
no.
205
優生思想
no.
206
no.
207
感染症とワクチン
no.
208
no.
209
障害
no.
210
no.
211
水産資源
no.
212
no.
213
教育格差
no.
214
no.
215
障害と性
no.
216
no.
217
医療
no.
218
no.
219
シングルマザー
no.
220
no.
221
多文化共生
no.
222
no.
223
誹謗中傷
no.
224
no.
225
児童労働
no.
226
no.
227
不登校
no.
228
no.
229
政治
no.
230
no.
231
食料危機
no.
232
no.
233
お金と社会課題
no.
234
no.
235
震災
no.
236
no.
237
まちづくり
no.
238
no.
239
精子提供
no.
240
no.
241
選挙
no.
242
アロマンティンク・アセクシュアル
no.
243
クラウドファンディング
no.
244
レイシャルプロファイリング
no.
245
子育てと科学的根拠
no.
246
高齢者雇用
no.
247
介護
no.
248
no.
249