ブームや話題性だけでない「動物のおもしろさ」を伝えたい——旭山動物園園長が考える動物園のあり方(前編)
ブームや話題性だけでない「動物のおもしろさ」を伝えたい——旭山動物園園長が考える動物園のあり方(前編)
動物園には当たり前のようにさまざまな動物がいて、誰でも気軽にその様子を見ることができる。その結果、ものめずらしい動物ばかりが話題になったり「いつ見ても同じ」と、人々から関心を持たれにくい動物も存在したりする。
しかし、北海道旭川市にある旭山動物園園長の坂東元さんは、「すべての動物は等しく素晴らしさやおもしろさを持っている」と話す。
旭山動物園は全国でも広く知られる動物園のひとつで、2019年度の年間入園者数は約140万人という人気ぶりだ。「伝えるのは、命」という理念のもと、動物たちの生活や行動を通じて、命の温もりや尊さを伝えることを重視しているという。
前編では坂東さんに、動物園の園長になったきっかけや、日本の動物園と海外との違いなどについて話を聞いた。
※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた1/20のライブ勉強会『【動物との共生vol.1 〜鑑賞される動物〜 】動物は見せ物ではないー 命と権利に向き合う動物園のあり方ー』の内容をもとに記事化した前編です。
旭山動物園園長。1961年北海道生まれ。酪農学園大学卒。 獣医となり86年より旭山動物園に勤務。 飼育展示係として行動展示を担当。 動物が持つ生態や能力を引き出すよう工夫した行動展示は旭山動物園を一躍有名にした。2009年より現職。
「人のために殺される動物」を目の当たりに
坂東さんの動物との出会いは、小学校のとき。生まれは北海道の旭川だが、小さなころから親の仕事の都合で、小学校だけで4回もの引っ越しを経験した。転校先でいじめられることも多かったという坂東さんは、生き物に夢中になった。
「はじめは、登下校のときに見つけたダンゴ虫や毛虫などを自宅に持ち帰っていました。カマキリの卵を数十個持ち帰り、玄関中が小さなカマキリだらけになったこともあります。
セキセイインコを飼って繁殖させたりもしていましたが、当時は鳥が病気になったときに診てもらえる病院がなかなかなくて。『自分が治せる側になりたい』と、中学生のころから考えるようになったんです」と坂東さんは話す。
獣医を目指すようになり、北海道江別市にある酪農学園大学獣医学部の獣医学科へ進学。研究室で牛の寄生虫などに関する研究に取り組んでいた坂東さんは、研究のための材料をもらうために屠殺場へ行ったとき、はじめて産業動物を目の当たりにしたという。
「鳥のほかに犬や猫などを飼った経験もありましたが、食用肉になるために生きている何百頭もの牛や豚を、生まれてはじめて見ました。同じ命であるにもかかわらず、ペットのような愛玩動物とはまったく違うカテゴリーなのだと感じました。
殺される牛は、目を真っ赤にして涙を流していました。殺される恐怖からなのかはわかりませんが、それを見たとき『こいつらも生きたいんじゃないか』と思って。でも彼らには、食用肉になるために殺される以外の選択肢はなかった。
大学時代は『何千何万という生き物の犠牲のうえで自分の身体はできているんだ』ということを実感した6年間でした」
(写真AC)
日本の動物園は「都市の繁栄」のためにつくられている?
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