100の課題があれば、100のビジネスでそれを解決する――ゼロから再興する南相馬に学ぶ(前編)
100の課題があれば、100のビジネスでそれを解決する――ゼロから再興する南相馬に学ぶ(前編)
福島県南相馬市の南部に位置する小高区は、東日本大震災における原発事故の避難指示区域に入り、2016年に避難指示が解除されるまで、全住民が区外での避難生活を余儀なくされていた。
その最中だった2014年に、住民ゼロの小高区で事業を立ち上げた人がいる。小高ワーカーズベースの代表取締役、和田智行さんだ。
和田さんは、最初にコワーキングスペース事業を開始したのち、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」をミッションに掲げ、食堂や仮設スーパーなどの立ち上げから、起業家の誘致育成まで、地域の再生につながる事業を幅広く展開してきた。
過疎化が進む地域において、地方創生につながる事業の開発は大きな課題だ。ゼロから町おこしに取り組む和田さんに、これまでの挑戦について聞いた。
※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた11/25のライブ勉強会「津波の街から事業おこしの街へ~地域の課題からビジネスを創出する南相馬から学ぶ地域おこし——地方創生を構造化せよ vol.2』の内容をもとに記事化した前編です。
南相馬市小高区生まれ。ITベンチャー勤務を経て独立。2005年、ITベンチャーの役員就任と同時にUターンし、東京の2社の経営にリモートワークで参画するライフスタイルを確立。2011年、原発事故により自宅が警戒区域となり、家族とともに避難生活を送るも、2014年に小高区にて避難区域初のコワーキングスペース事業を開始。その後、食堂や仮設スーパー、ガラスアクセサリー工房、起業家の誘致育成など、小高区住民帰還の呼び水となる事業の創出に取り組む。2014年 AERA 「日本を突破する100人」選出。
原発の避難区域に指定、街は人のいない「野生の王国」状態に
和田さんは、現在も拠点とする南相馬市小高区の出身だ。大学進学をきっかけに上京し、そのままITベンチャーに就職したが、震災より前の2005年に親の意向を汲む形で小高区にUターンした。
それをきっかけに、ITベンチャーで身に付けた技術を武器に仲間と独立。東京に本社を置き、自身はリモートワークを行っていた。
そんな中、2011年に東日本大震災が発生。
南相馬市は震度6弱の地震、津波、原発事故の被害に見舞われ、震災関連死を含め1000人近くが亡くなった。そして小高区はそのまま原発の避難指示区域に指定され、震災直後に避難したきり、家に帰ることが許されない状態になった。
「3カ月に1回、2時間だけ立ち入りが許されたので、防護服を着て靴の上からカバーを付け、土足で家に上がる形で必要なものを取りに行きました。街は津波が引いた状態のまま放置されて雑草が生い茂り、あっという間にジャングルのようになっていきました。その中を牧場から放たれた牛や豚、ダチョウなどが闊歩し、車を運転していると飛び出してきた牛にぶつかることもしばしば。本当に野生の王国のようでした」
(写真 和田智行さん)
その状態が約1年続いたのち、小高区は2012年4月に居住制限区域として、宿泊は許可されていないものの立ち入りは許され、病院や福祉施設、店舗などの事業が再開できるようになった。居住環境が改善されてきたのは、そこからさらに1年経ったころからだという。
そして2016年7月に避難指示が解除。震災前の人口は1万2800人だったが、2020年現在、戻ってきているのは3751人。その半数が高齢者で、子どもがいる家族は戻りたいという思いはあっても、戻りは芳しくないのが現状だ。
「生徒が少なければ競争が生まれずに学力が上がらない、できるスポーツが少ないといった教育環境への不安があるのではないか」と和田さんは話す。
周囲の理解が得られないまま、住民ゼロの地域で起業
避難指示が解除された後も、戻った人口は約3割。和田さんは「こういう状況だからこそ、僕らは可能性がすごくあると思って、この地域で事業をやっています」と話す。
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