違憲判決は社会を変えるか――裁判を通して「同性婚」を考える(後編)
違憲判決は社会を変えるか――裁判を通して「同性婚」を考える(後編)
札幌地裁が初めて「同性婚を認めないのは違憲」という判断を下した背景には、世論の同性愛に対する肯定的な感情の高まりが一因として挙げられる。
後編では、同性愛に対するまなざしがどのように変化してきたのかを示すとともに、今後の裁判の行方について、原告弁護団の一人である須田布美子弁護士に伺った。
※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた4/9のライブ勉強会「裁判の判決は社会をどう動かすか〜同性婚訴訟の札幌地裁判決から考える〜」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
2005年10月弁護士登録。札幌弁護士会所属。2010年11月須田布美子法律事務所開設。結婚の自由をすべての人に北海道訴訟弁護団員。NPO法人ゆいネット北海道・理事長。
同性愛への理解が進んだ
須田弁護士によると、同性婚が認められないことの合憲性を正面から問う裁判は今回が初めてだという。「これまでは『裁判をしても勝てない』と言われていたんです」。ところが、ここ数年で独自のパートナーシップ制度を導入する自治体が急増。性的少数者(LGBT)への理解が深まったことから、「今しかない」と、訴訟の提起を決めた。
同性愛への意識の変化を、裁判所の判決で認定された事実を元に紐解いてみたい。
明治期においては、同性愛は「健康者と精神病者との中間にある異常または先天性の疾病」とされていた。当時制定された民法では、婚姻は当然に男女がするものであることが前提とされており、同性婚については議論された形跡すら見当たらなかった。
昭和に入ってからも認識は変わらなかった。1979年に文部省が発行した中高生向けの資料では、同性愛は「性非行」の類型の一つとされ、「現代社会にあっても是認されるものではない」などと示された。
そのような扱いは人々に否定的な意識を植え付け、世界保健機関(WHO)が「病気ではない」と宣言した後、1997年の朝日新聞の世論調査でも、「同性愛を理解できる」と回答したのは28%にとどまり、「理解できない」の65%を大きく下回っていた。
世界に目を向けてみても、やはり長らく同性愛は精神障害と見られていた。しかし、人権意識の高まりに応じ、1989年には初めてデンマークで同性同士の関係を法的に認める制度が作られ、2001年にはオランダで同性婚が認められた。2021年4月現在、約30の国・地域で同性婚が認められている。
世論調査で「同性婚を法律で認めるべき(41%)」と答えた割合が「認めない(37%)」を上回った2015年、日本でも東京都世田谷区が登録パートナーシップ制度を導入した。以来、同様の制度を導入した地方公共団体数は2021年4月時点で103自治体に上る。
札幌地裁の裁判では、世論が同性婚に肯定的になってきていること、海外で法制化が進んでいることについて、違憲かどうかを検討する上での「考慮すべき事情」だと指摘した。
また、判決後にはさらに同性婚を肯定する人の割合が増加しており、違憲判決が人々の意識に影響を与えた可能性も示唆される。
これまでも世論の喚起に注力してきたという須田弁護士はこう話す。
「世論が変わらないと違憲判決は出ません。中立な司法機関でさえ『根拠のない差別だ』と言っていることを、世間の人たちにも理解してもらいたいのです。社会はどんどん変わっていますが、勝手には動かないので、私たちが動かしていかなければいけません」
(写真 須田布美子弁護士)
「同性婚反対」の主張
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