正規と非正規の雇用格差を埋めるために、何ができるのか――日本の非正規雇用を考える(後編)
正規と非正規の雇用格差を埋めるために、何ができるのか――日本の非正規雇用を考える(後編)
コロナショックの影響で、女性を中心とする非正規雇用の労働者が苦境に立たされ、社会的な問題になっている。
前編では、日本女子大学 人間社会学部 現代社会学科教授の大沢真知子さんと、NPO法人POSSEの茨木哲さんに、非正規雇用の労働者が直面している現状について話を聞いた。
後編では、非正規雇用という働き方が成り立ってきた背景や非正規雇用の問題点、セーフティネットの在り方について、引き続き大沢さんと茨木さんに解説していただいた。
※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた12/16のライブ勉強会「日本の非正規雇用と貧困って何が問題なの?ーーコロナショックの今、ジェンダーと現場の視点から考える』の内容をもとに記事化した後編です。
日本女子大学 人間社会学部 現代社会学科教授。同現代女性キャリア研究所所長。南イリノイ大学経済学部博士課程修了。Ph. D(経済学)。シカゴ大学ヒューレットフェロー。ミシガン大学ディアボーン校助教授、亜細亜大学助教授・教授を経て現職。専門は労働経済学。近著書は『女性はなぜ活躍できないのか』(東洋経済新報社、2015a)『なぜ女性は仕事を辞めるのか』共編著(青弓社、2015b)『21世紀の女性と仕事』(左右社、2018)『なぜ女性の管理職は少ないのか』(青弓社、2019)内閣府「仕事と生活の調和連携推進評価部会」委員。東京都女性活躍推進会議専門委員。
時代の変化とともに、雇用実態がミスマッチに
日本でそもそも非正規雇用という働き方が始まったのはいつなのか。大沢さんは、こう解説する。
「高度経済成長期に製造業の労働力不足が深刻化したときに、主婦がパートタイムで働くような労働が始まりました。その際、『主婦は家事や育児を主に行うという前提で働き方が自由になる代わりに、賃金は安くてもいいだろう』という名目で、最低賃金に近い賃金での処遇が決まったんです」
80年代には、主婦パートに対する年金の特別配偶者控除や、ある一定の年収を超えなければ社会保険料の負担を免除する(第3号被保険者制度)制度が導入された。
さらに90年代になると、企業がコスト削減のため、主婦パートだけでなく若者も非正規労働者とするようになり、非正規雇用が増えていった。
離婚率も上がり、パートタイムとして働きながら母子家庭を支える女性が増えたにもかかわらず、社会保障制度は(男性)正社員を対象として作られているため、非正規労働者は仕事を失うと生活に困ってしまうことになった。
また、結婚している場合であっても、家計における女性の収入の位置づけはここ数十年で変化してきた。高度経済成長期に主婦が働き始めたときは、家計の補助的な収入を目的とした就労が多かったが、いまでは男性の賃金が下がってきたことを背景に、夫婦そろって働きに出ることでようやく世帯の収入を賄えるという家庭も増えた。
このように、時代とともに非正規雇用で働く人の境遇が変わったにもかかわらず、処遇は変わらないまま今に至っている。
「そのうえ、主婦パートだから、女性だからという理由で会社から軽視され、簡単に切り離されてしまうという事態も起こっており、それが現代の非正規雇用の問題につながっています」と、茨木さんは指摘する。
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