吃音のある人の学校、家庭、職場での試練とは――当事者が語る「吃音」のリアル(後編)
吃音のある人の学校、家庭、職場での試練とは――当事者が語る「吃音」のリアル(後編)
発話障害の一つである「吃音」。成人の100人に1人が抱えると言われており、身近な存在ではあるが、一見すると流暢にしゃべれる人もいるため、周囲に悩みや生きづらさがなかなか理解されないという課題がある。
後編では、吃音の悩みをきっかけに中学1年生で医師を目指したという耳鼻咽喉科医の菊池良和さんに、当事者として悩み困ってきたことや、吃音のある人への周囲の対応やサポートのあり方について聞いた。
※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/6/4のライブ勉強会「社会に見えづらい困難『吃音』に迫る」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科助教、医学博士。中学1年生のときに、「吃音の悩みから救われるためには、医者になるしかない」と思い、猛勉強の末、鹿児島ラ・サール高校卒業後、1999年九州大学医学部に入学。医師となり、研修医を2年間終えた後、2007年に九州大学耳鼻咽喉科に入局。2008年より九州大学大学院に進学し臨床神経生理学教室で、「脳磁図」を用いた吃音者の脳研究を行ない、今まで4度国内外での受賞をしている。現在、九州大学病院耳鼻咽喉科で吃音外来を担当。吃音の著書多数。年平均20回、全国各地の講演会に招待され、吃音の啓発に努めている。医師の立場で吃音の臨床、教育、研究を精力的に行なっている第一人者である。
答えを先に言われてしまうのはつらい
医師を目指し始めた理由について、菊池さんは「吃音を治すには自分が医師になるしかないと思った」と話す。
菊池さんは幼い頃から、周囲のさまざまな偏見や誤解に戸惑い、悩んできた。また、自分自身が吃音について正しい知識を得ていなかったことも「周囲に相談しにくかったり、自分が混乱してしまったことの原因の一つだった」と振り返る。
幼稚園では、自己紹介がうまくできず周りの人から笑われた。
小学校1年生では、クラスの健康観察で名前を呼ばれて「はい、元気です」と素早く答えることができなかった。みんなが言える言葉が、みんなと同じスピードで言えない。周囲に「早く言わないと」と急かされ、それが気になって一時期言葉が出なくなった。
5年生のときには日直の号令がうまく言えず、「何で言えないの?」と指摘された。また、国語の授業で教科書を生徒が順に読んでいく丸読みもつらかった。
「私の番になって詰まっていると、先生が『漢字が読めないのかな?』と、先に答えを言ってしまうのです。授業中に先生に当てられて言葉に詰まると、クラスメイトが答えを教えてくれることもありました。
でも『本当はそうじゃない、答えはわかっているのに……』と思ってしまって、みんなの親切がかえってつらかった」と菊池さんは言う。
「なぜ先生は自分に嫌なことばかりさせるんだ」と感じていた菊池さん。ある日、大きなストレスを感じて教師に「(教科書を)読みません」とだけ言って、教室から飛び出してしまったこともあった。
「当時は、吃音というのは気にしない方がいいとか、本人に言うと気にするから触れないようにといった空気感がありました。悩んでいても、学校や家庭で相談できるようなオープンな関係性はどこにもなかったのです」
(写真 菊池良和さん)
吃音の問題は「閉じる」のではなく「開く」ことが大切
前編でも触れたように、吃音のある人が抱える悩みや問題は、周囲との関係性から生まれてくることが多い。
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