「ほっとできたのは仕事中だけ」安藤優子さんが語る母の介護と“第三者”の意義(前編)
「ほっとできたのは仕事中だけ」安藤優子さんが語る母の介護と“第三者”の意義(前編)
「介護は家族がするのが当たり前。そんな『イエ中心主義』から脱却し、介護はもっと人に頼っていいということを伝えていかなければなりません。少なくとも私や母は、第三者に頼れたことで救われました」
そう話すのは、約16年にわたって認知症の母の介護を経験した、キャスター・ジャーナリストの安藤優子さんだ。
介護が始まった当初、24時間体制でニュース番組に出演しながら母親をケアしていた安藤さん。その後、家族だけでの在宅介護に限界を感じ、母親を高齢者施設へ入れることを決断。それからの生活は母親にとって豊かな時間が流れていたと話す。
「私たち介護業界からも『第三者に頼ることは、要介護者本人にとっても良いことである』ということを、もっと社会に発信する必要があると思います」
介護・福祉事業者の人材採用や人材育成支援、介護領域に関心がある人たちのコミュニティ運営などを行う秋本可愛さん(株式会社Blanket代表)も、同じく介護における第三者の意義をそう語る。
超高齢社会のいま、多くの人が直面している介護の課題や困りごと。なかには家族だけで介護を抱え込み、深刻な状況に追い込まれてしまうケースも少なくない。
介護を家族だけに閉じず、第三者に頼ることの意義とは何か。そして、介護を頼りやすい社会にしていくためには何が必要なのか。
介護現場の現状に詳しい秋本さんをゲストに迎えつつ、安藤さんに介護経験や当時のエピソードについて語ってもらった。
《前編》「ほっとできたのは仕事中だけ」安藤さんが語る在宅介護の厳しさ
《中編》「第三者が介護を豊かにする」“心”と“技術”を併せ持つ現場のプロたち
《後編》「『よくできた』の一言で変わった」お互いに穏やかになれた理由
「母と向き合いすぎて煮詰まる」
安藤さんが経験した在宅介護の厳しさ
ーーまずは安藤さんのお母様の介護が始まったきっかけや、経緯をお聞きしてもよろしいですか?
安藤優子 はい。母には70代前半の頃から、老人性うつのような症状が出始めていました。
母は当時、マンションの一室で父と愛犬とともに暮らしていたんですが、ある日いきなり「ベランダから飛び降りてやる!」と叫んだり、徐々に異変が起こるようになりました。
そこに大きな理由はありません。何か不自由があるわけでも、夫婦間でトラブルがあったわけでもない。ただ、母はその辺りから全てのことが億劫になっていったようで。
もともと社交性があって、ヨガが流行ったらすぐにヨガ教室に通うくらい、なんでもかんでも首を突っ込んでいく人だったのに「もう一歩も外に出たくない」と。
その後、認知症のような症状が現れるようになります。そして父が亡くなったことでその症状がさらに進んでいきました。
父が亡くなったとき、母はすでに介護認定されていて、ヘルパーさんに介助をお願いしていたんですが、その人を勝手にクビにしてしまったり、色々なことがあって。
私も母の面倒を見ていたんですが、当時は24時間体制でニュース番組に出演していて、仕事が終わったら金曜日の夜から日曜日まで母の元に泊まりに行く、というような生活を送っていました。
それで物理的にも精神的にも限界を迎えて、母に高齢者施設に入ってもらうという決断をしました。
(写真:安藤さん)
安藤 実は認知症という診断がついたのは、高齢者施設に入ってからでした。
というのも、母は病院やお医者さんが大、大、大嫌いで。(笑)
何であろうが「自分の体のことは自分が一番よく知っている」と言い張る人だったんです。
引きずってでもしない限りは病院に連れて行けなかったし、ましてや「あなたはちょっと不安定だから病院に連れていきます」なんて声をかけたところで首を縦に振るはずがない。
なので、母と“高齢者施設に入る”というコンセンサスを取ることは至難の業でした。
結局、私は「マンションで水道工事があるから1週間水が出ない。別の場所に行かなくちゃいけない」と言って連れ出しました。
でも母はそんなの嘘だってわかっているわけですよね。母に切ない思いをさせてしまったし、精神状態も大きく乱してしまったなと思っています。
ーーありがとうございます。秋本さんは介護現場で色々な家族を見られていると思いますが、安藤さんのように、家族だけで介護をしていて限界を迎えてしまうケースは多いのでしょうか?
秋本可愛 そうですね。やはり「家族で支えるのは難しい」となった方から介護事業所にご相談をいただくことは多いです。
そもそもいまの社会では、介護が必要な人の数がどんどん増えています。
事前にきちんと準備した上で、介護が始まったらサービスを利用するという方もいらっしゃいますが、サービスを利用せず家族だけで介護しているケースは増えていると思いますし、社会の見えないところで限界を迎えている方々も多いのではと感じます。
ーー安藤さんはお母様の介護に関して「準備はできていた」という感覚はありましたか。
安藤 お恥ずかしいですけれども、私の場合は準備などできていなくて、最初の頃は「母はどうなっちゃったんだろう」というクエスチョンマークがずっと頭に浮かんでいた状態でした。
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