no.
162
山岳遭難
公開日: 2021/7/29(木)
更新日: 2023/3/27(月)

人はどのように遭難し、救助されるのか――山岳遭難と自己責任論(前編)

公開日: 2021/7/29(木)
更新日: 2023/3/27(月)
no.
162
山岳遭難
公開日: 2021/7/29(木)
更新日: 2023/3/27(月)

人はどのように遭難し、救助されるのか――山岳遭難と自己責任論(前編)

公開日: 2021/7/29(木)
更新日: 2023/3/27(月)

登山シーズンの訪れとともに目にするようになる「遭難」のニュース。そのたびによく上がるのが、自己責任論に基づいて遭難者を批判する声だ。

 

「わざわざ危険を顧みずに行ったのだから」「そんな天候のときに行ったのが悪い」「好きで行っているのだから、自分でなんとかすべき」――。

 

山岳遭難における問題は、すべてが登山者の自己責任なのだろうか。

 

前編では、国際山岳看護師(※)として山岳遭難捜索チームLiSSで活動する中村富士美さんに、自己責任について考える上で知っておきたい登山者・遭難者の現状や実態、実際の山岳遭難のプロセスなどについて聞いた。

 

※国際山岳看護師:日本登山医学会が認定する国際的な制度で、山岳で医療活動を行う看護師のことを指す。山岳医療の知識に加え、登山や救助の技術・知識も持つ。

※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/7/15のライブ勉強会「山岳遭難から考える自己責任論」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。

 

<中村富士美さん>
国際山岳看護師/山岳遭難捜索チームLiSS代表。WMAJ主催のアドバンスコースを受講したことをきっかけに、野外救急に興味を持つようになり、2017年日本登山医学会認定(UIAA/ICAR/ISMM)の国際山岳看護師に。 看護師としては、都内の市立病院で救命救急センター、集中治療室、心臓カテーテル検査室勤務を経て、現在は非常勤職員となり病院勤務を続けながら、安全登山の啓蒙活動や、山岳地帯における行方不明遭難捜索、救助活動を山岳看護師の立場でサポートをしている。山岳遭難捜索チームLiSSの代表も務める。

山岳遭難の現状と実態

5年おきに実施される総務省の社会生活基本調査によれば、2016年の15歳以上の登山者は約970万人。世代で見ると60〜64歳の「団塊の世代」を含む中高年の登山人口が多い。現在は新型コロナウイルスの影響で登山施設の利用が制限される場合もあるものの、登山自体は行われている。

 

かつての登山者たちは、山岳会などに所属して登山の技術や知識を学んだ上で山に登っていた。現在ではインターネットやSNSなどの媒体から情報を得られるようになったこともあり、登山自体のハードルが下がったことで比較的身近なレジャーとして楽しまれるようになった。2010年には登山やハイキングを楽しむ若い女性を指す言葉、「山ガール」が流行語大賞の候補にも選ばれている。

 

一方、2016年の登山者数が約970万人だったのに対して、同年の山岳遭難件数は2495件。直近2020年でも2294件の遭難が発生しており、241名の死者・行方不明者が出ている(​警察庁「令和元年における山岳遭難の概況」より)。

 

遭難の発生件数は平成に入ってから増加しており、この30年で倍以上に増えている。これは「インターネット等から情報を得てトレーニングなしに登山に行けるようになったこと、携帯電話の普及で簡単に救助要請ができるようになったことなどが関係しています」と中村さんは話す。

 

(写真 中村富士美さん)

 

山岳遭難では一般に「外傷・心臓突然死・低体温」が3大死因とされている。詳しく見ていくと、特に外傷と低体温が実際の死亡ケースの大半を占めていることがわかる。

 

これらはいわば「結果」であり、実際は天候や地形と行った環境的な要因も含め、さまざまなアクシデントが積み重なることで致命的な状況に陥ってしまうのだという。

 

たとえば下山中に足を捻ってしまったようなケース。動けなくなってしまったところで風雨に襲われ、救助を要請したものの、悪天候ですぐにヘリコプターを飛ばすことができない。

 

そうしているうちに気温が急激に下がっていき、最終的に低体温症で命を落としてしまう。山岳遭難は単一の原因で引き起こされると言うより、複数の要因が連鎖的・重畳的に関係した結果として引き起こされることが多い。

 

実際に中村さんのチームに来る捜索依頼では、「道に迷う」ことがきっかけの遭難が多いのだという。はじめは「道に迷う」という小さなアクシデントでも、最終的には崖からの滑落や迷った末の衰弱、低体温などで命を落とすケースもある。

救助と捜索はどのように行われるのか

※リディラバジャーナルについてもっと知りたい方はコチラ
イシューから探す
×
CONTENTS
intro
ホームレス
no.
1
no.
2
若年介護
no.
3
no.
4
奨学金
no.
5
no.
6
差別
no.
7
no.
8
観光
no.
9
no.
10
子どもの臓器提供
no.
11
no.
12
都市とコロナ
no.
13
no.
14
ICT教育
no.
15
no.
16
産後うつ
no.
17
no.
18
宇宙
no.
19
no.
20
戦争
no.
21
no.
22
人工妊娠中絶
no.
23
no.
24
緊急避妊薬
no.
25
no.
26
テロリスト・ギャングの社会復帰
no.
27
no.
28
社会起業家
no.
29
no.
30
海上自衛隊
no.
31
no.
32
プロジェクト
no.
33
ソーシャルビジネス
no.
34
教員の多忙化
no.
35
no.
36
性的マイノリティ
no.
37
no.
38
出所者の社会復帰
no.
39
no.
40
ワクチン
no.
41
no.
42
薬物依存
no.
43
no.
44
性の悩み
no.
45
no.
46
リブランディング
no.
47
no.
48
少年犯罪
no.
49
no.
50
学校教育
no.
51
no.
52
LGBT
no.
53
no.
54
スロージャーナリズム
no.
55
no.
56
ソーシャルセクター
no.
57
no.
58
教育格差
no.
59
no.
60
メディア
no.
61
大人の学び
no.
62
no.
63
地方創生
no.
64
no.
65
家族のかたち
no.
66
no.
67
他者とのコミュニケーションを考える
no.
68
no.
69
地方創生
no.
70
no.
71
地方創生
no.
72
no.
73
非正規雇用と貧困
no.
74
no.
75
他者とのコミュニケーションを考える
no.
76
no.
77
家族のかたち
no.
78
no.
79
他者とのコミュニケーションを考える
no.
80
no.
81
地球温暖化対策
no.
82
no.
83
就労支援
no.
84
no.
85
1年の振り返り
no.
86
no.
87
動物との共生
no.
88
no.
89
行政のデジタル化
no.
90
no.
91
温暖化対策
no.
92
no.
93
動物との共生
no.
94
no.
95
地方移住
no.
96
no.
97
動物との共生
no.
100
no.
101
温暖化対策
no.
102
no.
103
組織論
no.
104
no.
105
キャリア
no.
106
no.
107
復興
no.
108
no.
109
コミュニティナース
no.
110
no.
111
MaaS
no.
112
no.
113
地球温暖化
no.
114
セックスワーカー
no.
115
no.
116
感染症とワクチン
no.
117
no.
118
大学生の貧困
no.
119
no.
120
温暖化対策
no.
121
no.
122
同性婚
no.
123
no.
124
フェアトレード
no.
125
no.
126
シェアハウス
no.
127
no.
128
飲食業
no.
129
感染症とワクチン
no.
130
no.
131
国際報道
no.
132
no.
133
社会的養護
no.
134
no.
135
認知症
no.
136
no.
137
入管法
no.
138
no.
139
国際問題
no.
140
no.
141
コミュニティ
no.
142
no.
143
コミュニティ
no.
144
no.
145
コミュニティ
no.
146
no.
147
吃音
no.
148
no.
149
コンサル×社会課題解決
no.
150
no.
151
いじめ
no.
152
no.
153
社会課題×事業
no.
154
no.
155
社会課題×映画
no.
156
no.
157
感染症とワクチン
no.
158
no.
159
社会教育士
no.
160
no.
161
山岳遭難
no.
162
no.
163
支援者支援
no.
164
no.
165
いじめ
no.
166
no.
167
ゲーム依存
no.
168
no.
169
トランスジェンダーとスポーツ
no.
170
no.
171
うつ病患者の家族
no.
172
no.
173
パラスポーツ
no.
174
no.
175
代替肉
no.
176
no.
177
弱いロボット
no.
178
no.
179
戦争継承
no.
180
no.
181
女性の社会参画
no.
182
no.
183
子どもの居場所
no.
184
no.
185
感染症とワクチン
no.
186
no.
187
デジタル社会
no.
188
no.
189
若年女性の生きづらさ
no.
190
no.
191
ゼブラ企業
no.
192
no.
193
多胎児家庭の困難
no.
194
no.
195
ソーシャルイノベーション
no.
196
no.
197
ジェンダー
no.
198
no.
199
毒親
no.
200
no.
201
葬儀
no.
202
no.
203
感染症とワクチン
no.
204
no.
205
子どもの安全
no.
206
no.
207
優生思想
no.
208
no.
209
感染症とワクチン
no.
210
no.
211
障害
no.
212
no.
213
水産資源
no.
214
no.
215
教育格差
no.
216
no.
217
障害と性
no.
218
no.
219
医療
no.
220
no.
221
シングルマザー
no.
222
no.
223
多文化共生
no.
224
no.
225
誹謗中傷
no.
226
no.
227
児童労働
no.
228
no.
229
不登校
no.
230
no.
231
政治
no.
232
no.
233
食料危機
no.
234
no.
235
お金と社会課題
no.
236
no.
237
震災
no.
238
no.
239
まちづくり
no.
240
no.
241
精子提供
no.
242
no.
243
選挙
no.
244
アロマンティンク・アセクシュアル
no.
245
クラウドファンディング
no.
246
レイシャルプロファイリング
no.
247
子育てと科学的根拠
no.
248
高齢者雇用
no.
249
介護
no.
250
no.
251