2050年カーボンニュートラルと自動車業界の未来 ――温暖化対策とクルマの電動化(後編)
2050年カーボンニュートラルと自動車業界の未来 ――温暖化対策とクルマの電動化(後編)
2020年10月、菅政権が「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、日本の自動車業界も大きな転換点にある。
前編に引き続き、自動車ジャーナリストとして国の自動車政策にも関わってきた川端由美さんの視点から、日本の自動車業界の未来を展望する。
※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2/10のライブ勉強会「【リディ部環境会議vol.3】EV普及、日本は先進?後進?~世界の温暖化対策からみる現状~」の内容をもとに記事化した後編です。
フリーランスの自動車ジャーナリスト。大学院で工学を修め、エンジニアとして就職するも、子どもの頃からのクルマ好きが高じて自動車専門誌『NAVI』の編集記者に転身。自動車の環境問題や次世代パワートレーンについて総合的にリポートする。海外のモーターショーや学会も積極的に取材し、Forbes、日経クロストレンドなどに執筆。内閣官房の道路交通ワーキンググループ、国土交通省のMaaS懇談会、環境省有識者委員会の委員などを歴任。
日本より遅れていたはずのドイツで衝撃的なEVシフト
日本では比較的早くから日産リーフなどのEVが市販され、いろいろな企業がEVを選択肢として持っていたため、他国からのベンチマークになっていた。しかし「現在は追いつかれ気味」だと川端さんは話す。
ドイツでEVが出始めた2010年頃、ドイツは日本より遅れていたが、実は当時から日本をよく研究していたと川端さんは言う。
「ドイツは、EVの研究開発に補助金を出しました。購入者に補助金を出してしまうとドイツのEVではなく、よくできた日本やフランスのEVを買ってしまうからです」
10年かけて研究開発を行い、今では日本やフランスのEVと比較しても消費者が買ってくれそうな自国のEVができたので、販売促進を強化しているところだ。
「昨年一年間でドイツのEVの販売台数は約3倍に増加しています。ここ10年間で商品魅力も含めて研究開発してきたわけです」と川端さんは話す。
「そして、道端にもサービスエリアにも充電ステーションがたくさんできました。ヨーロッパでは普通の電源が200Vで、最大400Vまで上げられるので、家庭用の電源でもEVの充電ができます」
10年前には日本をベンチマークしていたドイツが、急速にEVシフトできたのはなぜか。
川端さんは「要因の一つに、日本とドイツの会議体の違いがあると思います。日本の会議体は民意を聞く形をとることが目的ですが、ドイツの会議体には決定の権限が与えられています」と指摘する。
たとえば、ドイツの連邦政府は全体の枠組みをつくるだけで、各省庁の権限が強い。自動車産業については、メルケル首相直轄の機関として有識者を交えた諮問委員会が持たれ、将来のあり方まで含めて検討が行われた。それが、前編でも触れた『電気自動車のための国家プラットフォーム』だ。
「自動車をどのように持続可能なものにするか、CO2排出のことも全て検討する機関が首相のすぐ下にあって、ものが言えて決められるという形です。そういう場で8年もかけて話し合ったんです」
『電気自動車のための国家プラットフォーム』の会議は2010年から検討を重ね、2018年にまとまった提言が発表された。
「ドイツは時間と労力をかけて全体の枠組みをきちんと作り、決めたらいきなり走り出したんです。フォルクスワーゲンは工場を一つEV化して約33万台つくっていますし、ドイツ国内にもうひとつ、EV専用工場を作りました。中国やアメリカにある工場でも、どんどんEVの製造を始めました。2年前まで遅れていると思っていたドイツに日本は後塵を拝したのです」
(pixabay)
日本の自動車業界のシフトチェンジはできるのか
「決めたらやるのがドイツ人」という川端さんによると、日本とドイツで業界団体のあり方にも違いがあるという。
「良し悪しは別として、VDA(ドイツ自動車工業会)の会長は、メルケル首相の腹心だった人物と言われており、ロビー活動にも熱心です」
一方、自工会(日本自動車工業会)は、自動車メーカー各社の代表が持ち回りで会長を兼務して業界を取りまとめているが、業界のシフトチェンジを強力に推進しようとしている団体ではないという。
いま日本の自動車業界は、EV推進、脱ガソリン車の流れをどのようにとらえているのだろうか。
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