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葬儀
2021/12/1(水)まで無料公開
制約から生まれた新たな「弔いの形」とは――コロナ禍における「お別れのあり方」
2021/12/1(水)まで無料公開
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制約から生まれた新たな「弔いの形」とは――コロナ禍における「お別れのあり方」
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新型コロナウイルス感染拡大は、葬儀のあり方にも影響を及ぼした。
葬儀実施が叶わなかったり、儀式の縮小や参列者の限定など、葬儀のあり方は大きく変化した。
一方で「死の儀礼」への変化を余儀なくされたことで、新たに生まれた方法や価値観などもある。

今回は、公益財団法人国際宗教研究所研究員の宮澤安紀さんと、一般社団法人リヴオン代表の尾角光美さんにインタビュー。二人は、共著論考「死をめぐる新型コロナウイルス感染症の影響」を発表し、今回のコロナにおいて、葬儀や遺族のあり方にどのような変化が起きたのかについて考察を行った。

前編では宮澤さんに、葬儀が持つ意味、コロナ禍がもたらした死の儀礼への影響、日本ならではの故人との向き合い方などについて話を聞く。

※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた「コロナ禍のお別れの在り方〜葬儀の意味を改めて考える〜」で行われました。
リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。

 

宮澤安紀さん(公益財団法人国際宗教研究所研究員 他)
筑波大学にて宗教学を学び、現代社会の死と葬送について日英の比較から研究を行う。博士(文学)。現在、(公財)国際宗教研究所研究員、國學院大學日本文化研究所PD研究員、筑波大学非常勤講師など。

葬儀は人間の「通過儀礼」である

幼い頃から日常的に宗教に触れる家庭で育ち、筑波大学で宗教社会学を学んだ宮澤さん。
同大学院の博士課程では、現代社会の死と葬送について、日本とイギリスの比較研究に取り組んだ。


(宮澤安紀さん)

「死というものは、誰もが抱える究極的な関心であり、課題だと考えています。昔は、宗教が死にまつわる課題への答えを与えていたと思うのですが、現代社会においては、死後の世界について考える機会が少なくなっています」

そもそも、葬儀というものは人間にとっての「通過儀礼」なのだという。成人式が子どもから大人の状態に移行するための通過儀礼とされるように「ある状態から、別の状態へと移行するためのもの」という位置づけだ。

「葬儀の場合、その儀式を通じて、『生』から『死』への段階的なプロセスを踏んでいくものだと捉えることができます。

フランスの社会学者・人類学者のロベール・エルツは、『死体』『霊魂』『残された生者(服喪者)』という3つの側面から、葬儀を分析しようとしました。日本の民俗学者である山田慎也氏は、エルツの研究に基づいて、日本の葬儀を『死の総合的な変換装置である』と解釈しています」

「死の総合的な変換装置」としての側面は、3つあるとされる。まず1つは、死の物理的変換。すなわち土葬や火葬といった行為を通じて、遺体を処理することを指す。

2つ目は、死の文化的な変換。つまり、故人というひとりの人間を、「死者」としてのカテゴリーに変換し直すことを指す。

そして3つ目が、死の社会的変換。人が亡くなることで、服喪者(喪に服す人)への役割が再分配されることを指す。
たとえば、喪主。ある家の家長が亡くなったら、喪主を務めた人が、今後はその家の代表としての役割を担うことになるのが一般的だ。
日本で行われる葬儀は、これらの3つの役割を持つとされている。

 

 

コロナ以前から見られた死の儀礼の変化

宗教と死は、昔から密接なつながりがあった。

「たとえば近代以前のヨーロッパでは、どのような宗教的儀礼や作法を行えば、故人が天国へ行けるのかということを皆が知っていました。
日本においては、古代から中世にかけて仏教が本格的に受け入れられ、さらに死後は極楽浄土へ行くことを願う浄土信仰が浸透していきました。平安時代には『往生要集』という、どうすれば極楽浄土へ行けるかを指南した仏教書も残されています。

中世までは、みんなが共有された死後観を持っていて、宗教的な作法や儀礼を通じて、死を自然に受け入れる準備をしていました。つまり、死に向き合う際に、死後を語る宗教が重要な役割を果たしていたんです」と、宮澤さんは言う。

一方、近年の日本においては「死後の世界」へのリアリティをあまり持たない人が多いと、宮澤さんは説明する。実際に、ISSP(International Social Survey Programme)の調査によると、「死後の世界はある」と考えている人は、1998年の時点でも4割弱にとどまっている。

また、死の儀礼も多様化していると宮澤さんは語る。

「海外も日本のように世俗化している国が増えているため、コロナ以前から、死の儀礼は多様化していました。
たとえば、土葬が基本だったキリスト教圏でも、近代以降、プロテスタント諸国を中心に火葬が浸透し、カトリック圏でも1963年にはローマ法王庁が火葬を容認したことで、近年では火葬をする人々が増えています。
また、中国や韓国など、土葬を伝統としていた儒教文化圏では都市化が進み、埋葬場所がないことなどを理由に、火葬や散骨、納骨堂への納骨などが広がっています」

日本でも、必ずしも「先祖代々のお墓を引き継ぐ」という選択ではなく、樹木葬や散骨などの弔いの形も出ていている。

「近年、日本では『自然に還って、自然の一部になりたい』と考えて、樹木葬を選ぶ人もいますが、海外でも樹木葬と同様に、遺体や遺骨を自然に還す葬送が広がっています。
これは伝統的・民俗宗教的な価値観の復興というよりも、『遺骨を動植物の栄養にする』というような、科学的知識を基にした発想として捉えることができます」


 

コロナ禍の葬儀で起きたさまざまな問題

2020年に発生した新型コロナウイルスは、葬儀にも大きな影響をもたらした。宮澤さんは早期から、コロナによる日本や世界の葬儀の状況などを報じた記事を、オンラインで確認できる限り収集してきた。

「ロックダウンが実施されて葬儀会場に行けない、渡航ができず他の国で暮らす親族や友人の葬儀に行けない、参列に制限がかかったり通常通りの葬儀ができないなど、さまざまな問題が発生しました。とくに初期のころは、新型コロナウイルスに関する十分な情報もなかったため、厳しい制限が課せられた国が多くありました」と、宮澤さんは振り返る。

たとえば、イタリアでは2020年3月のロックダウン開始時、コロナによる死者の場合は葬儀を行えず、埋葬あるいは火葬のみ。同時期のフランスでは集会禁止が要請されるなかで例外的に葬儀は認められたが、参列者数は20名までに絞られた。

葬儀をせず火葬のみを行う「直葬」がコロナ以前から増加傾向にあったイギリスでは、新型コロナウイルスの発生後、自治体が市民に対し直葬を要請することもあったという。

日本でも、やはり従来の葬儀の形式と同様にとはいかず、さまざまな制約を強いられた。

「大正大学地域構想研究所・BSR推進センターが寺院を対象に実施した調査(2020年5月)では、葬儀の変化について『会葬者の人数が減った』という回答が88.6%でした。法事についても『中止や延期があった』という回答が87.8%でした。

また鎌倉新書による葬儀社への調査では、とくに初期の頃は、通夜をせず告別式と火葬のみの直葬・火葬式が急増したという実感があり、これらの調査からも、日本でコロナ以降、いわゆる葬儀の簡素化の傾向があったことがわかります」

ただし日本では、コロナ流行前から、トレンドとして葬儀の小規模化は進んでいた。そこには参列者の高齢化や、経済的な事情で葬儀にお金をかけられないなどの背景がある。

一方、制約による小規模な葬儀で問題が生まれた地域はなかったのか、宮澤さんは続ける。

「たとえばイランなどイスラム文化圏では、そもそも葬儀の参列者がとても多いんですね。それが、コロナの影響で参列者が限定され、さらに弔問ができないケースが出てきました。通常、遺族は多くの人々と喪失感を分かち合えますが、コロナ禍においては孤独に向き合うこととなりました。

また、ユダヤ教でも遺族が喪の期間を過ごす間、隣近所の弔問客が集まり、遺族に食事を差し入れるというような相互扶助があります。そういった人たちにとっては、お互いの行き来が制限されてしまうと、共同体における遺族支援が困難になってしまうという弊害が生まれています」



コロナがもたらした新たな「弔いの形」

感染症対策と「葬儀」という宗教儀礼の両立は、困難なことも多い。
一方、コロナによる葬儀の制約は、必ずしもネガティブな側面からのみ語られるものではないと宮澤さんは説明する。
特に変化が生まれたのは、テクノロジーの活用だ。

「たとえば、イスラム教の女性はこれまで、宗教的な理由から埋葬に立ち会うことができませんでした。ですがコロナをきっかけに、インターネット配信を通じて埋葬に立ち会うことができるようになったという事例が報道されています。古くからの伝統が、コロナをきっかけに変わっていく可能性もあると言われています。

また、どうしても直接葬儀に参列できない人のために、オンライン葬儀も次第に普及しています。日本ではコロナ以前もそうしたサービス自体はありましたが、『オンライン葬儀なんて利用する人はいないのではないか』という雰囲気がありました。
今回、制約のある環境下で、たとえオンラインでも葬儀に関わりたいという人々の希望が見られたのだと思います」

 

時代の流れやコロナの影響もあり、葬儀という儀礼は簡素化傾向にある。では、十分に死者を弔えないのかというと、そうとも限らないと宮澤さんは言う。

「コロナ禍のなかでも、日本ではお墓参りやお盆参りなどを継続している人が一定数いたことが報告されています。こういった死者とつながりを持つための日本の伝統や慣習は、実は海外から非常に注目されています。

たとえば欧米では、20世紀頃までは『死者を忘れることが死の悲しみを克服することである』という発想がありました。したがって、死者のことをいつまでも忘れずにいるような人は、ある種、病人のように見られ、治療の対象となりました。ですが、20世紀末頃からは『死者とともにある生き方は、必ずしもおかしなことではない』という認識も、広く知られるようになってきています。

日本には、死者とのつながりを大切にできる文化が残っています。そういった文化の意味を考えていくことが、これからの時代においては重要だと思っています」


 

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CONTENTS
intro
ホームレス
no.
1
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2
若年介護
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3
no.
4
奨学金
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5
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6
差別
no.
7
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8
観光
no.
9
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10
子どもの臓器提供
no.
11
no.
12
都市とコロナ
no.
13
no.
14
ICT教育
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15
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16
産後うつ
no.
17
no.
18
宇宙
no.
19
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20
戦争
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21
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22
人工妊娠中絶
no.
23
no.
24
緊急避妊薬
no.
25
no.
26
テロリスト・ギャングの社会復帰
no.
27
no.
28
社会起業家
no.
29
no.
30
海上自衛隊
no.
31
no.
32
プロジェクト
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33
ソーシャルビジネス
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34
教員の多忙化
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35
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36
性的マイノリティ
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37
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38
出所者の社会復帰
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39
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ワクチン
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薬物依存
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性の悩み
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リブランディング
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少年犯罪
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学校教育
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51
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LGBT
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53
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スロージャーナリズム
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ソーシャルセクター
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教育格差
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メディア
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大人の学び
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63
地方創生
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64
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家族のかたち
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66
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67
他者とのコミュニケーションを考える
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68
no.
69
地方創生
no.
70
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71
地方創生
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72
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73
非正規雇用と貧困
no.
74
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75
他者とのコミュニケーションを考える
no.
76
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77
家族のかたち
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78
no.
79
他者とのコミュニケーションを考える
no.
80
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81
地球温暖化対策
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82
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83
就労支援
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84
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85
1年の振り返り
no.
86
no.
87
動物との共生
no.
88
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89
行政のデジタル化
no.
90
no.
91
温暖化対策
no.
92
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93
動物との共生
no.
94
no.
95
地方移住
no.
96
no.
97
動物との共生
no.
100
no.
101
温暖化対策
no.
102
no.
103
組織論
no.
104
no.
105
キャリア
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106
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107
復興
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108
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109
コミュニティナース
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110
no.
111
MaaS
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112
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113
地球温暖化
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114
セックスワーカー
no.
115
no.
116
感染症とワクチン
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117
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118
大学生の貧困
no.
119
no.
120
温暖化対策
no.
121
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122
同性婚
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123
no.
124
フェアトレード
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125
no.
126
シェアハウス
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127
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飲食業
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129
感染症とワクチン
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130
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131
国際報道
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132
no.
133
社会的養護
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134
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135
認知症
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136
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137
入管法
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138
no.
139
国際問題
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140
no.
141
コミュニティ
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142
no.
143
コミュニティ
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144
no.
145
コミュニティ
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146
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147
吃音
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コンサル×社会課題解決
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151
いじめ
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社会課題×事業
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154
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社会課題×映画
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感染症とワクチン
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社会教育士
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160
no.
161
山岳遭難
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162
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支援者支援
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164
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いじめ
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トランスジェンダーとスポーツ
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うつ病患者の家族
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パラスポーツ
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代替肉
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176
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戦争継承
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180
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女性の社会参画
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183
子どもの居場所
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感染症とワクチン
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186
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デジタル社会
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若年女性の生きづらさ
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ゼブラ企業
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192
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多胎児家庭の困難
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ソーシャルイノベーション
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ジェンダー
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毒親
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201
葬儀
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204