「完璧な人はいない」からこそ、ともに生き合う社会を――子どもの居場所づくりの取り組みに迫る(後編)
「完璧な人はいない」からこそ、ともに生き合う社会を――子どもの居場所づくりの取り組みに迫る(後編)
子どもが逃げられる先としての「居場所」。相川良子さんが理事長を務めるNPO法人ピアサポートネットしぶやでは、引きこもりや不登校の当事者経験のある大学生などを「ピアサポーター」として迎え、子どもたちが安心して拠り所にできる場と関係性をつくっている。
具体的な活動や背景について触れた前編に引き続き、後編ではその根底に流れる理念やいまの社会に必要とされる「あいまいさ」、互いに「生き合う」関係の重要性について、相川さんに聞いた。
※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/9/1のライブ勉強会「子どもを排除しない社会をつくる~居場所づくりの取り組みに迫る~」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
<相川良子さん>
NPO法人ピアサポートネットしぶや 理事長。公立中学校教諭、教頭、校長を経て社会教育に携わったあと、「ピアサポートネットしぶや]を立ち上げ、不登校、ひきこもりの子供・若者の社会自立を目指している。「原宿の丘コミュニティ委員会」顧問、「渋谷ファンイン」事務局、社団法人 全国キャリア教育ネットワーク協議会監事、NPO法人 スクールアドバイスネットワーク協議会監事など、多岐にわたって子供の支援をおこなっている。
「居場所」に必要なもの
ピアサポートネットしぶやのような活動は「居場所づくり事業」や「居場所支援」として、自治体、NPO法人、市民のボランティアや団体など多くの主体が取り組んでいる。
このアプローチでの子ども支援が重要視されるようになったのは、まさしく相川さんが目の当たりにした1980年代の学校における不登校の問題からだ。
学校に行くことが自明視される社会において、そうできない子どもたちを受容して尊重するという居場所支援の精神は、この時代に生まれた。
現在では不登校だけでなく貧困などあらゆる困難を抱えた子どもを受け入れる場として、従来のフリースペースとしての居場所に加え、無料・低額で食事を提供する「子ども食堂」や遊びの場となる「プレイパーク」など、地域を起点とした支援活動が広がっている。
ピアサポートネットしぶやでも一つの支援に限定せず、これらのうち複数の場づくりを同時並行的に行っている。
「その人が選び取る居場所っていうのは、一つじゃなくてもいいと思うんです。多ければ多いほどいいと思うんですよ」(相川さん)
(写真 相川良子さん)
実際、平成29年度の子ども・若者白書(内閣府)によれば、「居場所だと感じる場の数」が多いほど「生活の充実度(幸福感)」が高いことがわかっている。
また若者(15〜29歳)が居場所と感じられるところは、自分の部屋、家庭、インターネット空間、地域、学校などさまざまだ。このことからも相川さんは、多様で複数の居場所があることが重要であり、その選択肢を提供することが必要だと言う。
しかし居場所とは、単に物理的なスペースがあればいいというわけではない。
「昔から居場所とは『三間』だと言われてきました。『空間』のほかに、誰かと過ごす『時間』、そして時間や空間を共有する『仲間』が必要だと」
「三間」は70年代以降の受験競争や生活の都市化で失われていったと、相川さんは続ける。勉強によって時間がなくなり、都市化の進展で子どもが好きに遊べる空間が減った。そして時間と空間がなくなることで、必然的に遊ぶ仲間もいなくなり、地域や社会とのつながりも希薄になる。
この問題はコロナ禍で社会生活が大きく制約される現在も、形を変えて残り続けているという。
あいまいであることが肯定される場所
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