ステイホームで浮き彫りになった貧困と孤独 ――若年女性の生きづらさを捉え直す(前編)
ステイホームで浮き彫りになった貧困と孤独 ――若年女性の生きづらさを捉え直す(前編)
長期化する新型コロナウイルスの流行により、社会的に弱い立場にある若い女性たちが深刻な打撃を受けている。
貧困、虐待、DV、性的搾取——多くの苦難を抱えながら生きる若年女性は多い。一方、その生きづらさは周囲へなかなか発されず、社会に認知されにくいという性質がある。彼女たちはどのような困難を抱えているのか。また、SOSを発信できない構造的要因とは。
元厚生労働省事務次官であり、「若草プロジェクト」代表呼びかけ人として現在も少女・若年女性の支援を行う村木 厚子さんに、若年女性が抱える生きづらさの背景を聞いた。
※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/9/16のライブ勉強会「若年女性の生きづらさを捉え直す」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
<村木 厚子さん>
元厚生労働省事務次官/若草プロジェクト代表呼びかけ人。
1955年高知県生まれ。土佐高校、高知大学卒業。78年労働省(現厚生労働省)入省。女性政策、障がい者政策、働き方改革や子ども政策などに携わる。郵便不正事件で有印公文書偽造等の罪に問われ、逮捕・起訴されるも、2010年無罪が確定、復職。2013年から15年まで厚生労働事務次官を務め退官。現在は、津田塾大学や社会事業大学専門職大学院で客員教授を務めるほか、伊藤忠商事(株)および住友化学(株)の社外取締役を務める。また、累犯障がい者を支援する「共生社会を創る愛の基金」の顧問や、生きづらさを抱える少女・若年女性を支援する「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人として、NPO活動に携わるとともに、住宅確保に困難を抱える者のための居住支援や農福連携の普及に携わっている。
「食べ物がない」女性たちを追い詰める貧困
2020年11月に内閣府男女共同参画局が行った調査によると、女性の就業者数はコロナ以前の前年同月と比較しおよそ70万人減、DV相談センターに寄せられた女性からのDV・性暴力の相談件数は約1.6倍と大幅に増え、2020年10月の女性の自殺者数は前年同月比で約1.8倍というデータがある。
「家にいられない、行く場所がない」「親も先生も信用できない」——そんな悩みを抱える若年女性のため、「若草プロジェクト」が行っているLINE相談。新型コロナウイルス感染急拡大により初めて緊急事態宣言が発令された2020年4月頃から、相談件数が急増したと村木さんは語る。
(写真 村木厚子さん)
いま、彼女たちはどんな困りごとを抱えているのだろうか。
「メンタルや家族に関する相談が多いですね。その背景にあるのは雇用や家庭の問題です。雇用に関して言えば、コロナ禍で若年女性の失業がすごく増えました」
飲食業やサービス業が次々と休業、営業時間短縮に追い込まれる中、雇い止めなどにより大幅に収入が減り、経済的に困窮している女性が増えている。
「こうした不況の時に切られやすい雇用形態、業態に女性がいた」と村木さんは指摘する。
1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから、雇用におけるジェンダーギャップは解消されてきたように見える。女性の社会進出が叫ばれ、就業率は上昇しているものの、依然として非正規の職に就くのは女性に偏っている。
労働力調査によれば、非正規労働者は男性665万人に対し女性は1425万人(2020年)だ。
村木さんは非正規で働く人たちへの待遇について次のように語る。
「日本は国際的に見ても『クビが切れない国』と言われています。たしかに正社員を解雇するのは難しい。このように安定した正規雇用の陰で、非正規雇用が調整弁になってしまっている現状があります。一般的に非正規は収入も少なく、社会保険などの適用がないことも多い。
今回のコロナ禍のように景気が悪くなると、真っ先に人員削減の対象になるのはパートや派遣社員などの非正規の人たちです」
こうした社会構造の歪みは、若い女性たちを深刻な困窮状態に追い詰める。
「児童養護施設を出た人のアフターケアをやっている団体に聞くと、お米を送って『ありがとう』と喜ばれたと。お礼の電話が来て、なんとなく世間話を続けているうちに『実は……』と相談につながるケースもあるのだそうです。
彼女たちにとって、自分から助けを求めるのはそれほど敷居が高いことなのです」
ステイホームで途絶えたつながり
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