従業員の7割が障害や難病と向き合う――働くを叶える組織と仕組み(前編)
従業員の7割が障害や難病と向き合う――働くを叶える組織と仕組み(前編)
社会の変化や「障害者雇用促進法」によって、民間企業で働く障害者の数は、年々増加している。
一方で、法的義務である雇用率を達成できている企業は半分以下にとどまる。特に中小企業では、十分な雇用創出ができていない状況がある。
生きづらさ、働きづらさを抱えた人が、当たり前に地域で働くには、どのような視点や取り組みが必要になるのか。
従業員の7割が障害や難病と向き合う当事者という株式会社LORANS.(ローランズ)代表取締役の福寿満希さんに、花や緑の仕事を通して従業員の『働く幸せ』を生み出してきた道のりや、障害者雇用のあり方などについて話を聞いた。
※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた1/8のライブ勉強会『花で障がい者の可能性を広げる〜障がい者の”働く”を考える〜』の内容をもとに記事化した前編です。
大学在学時の特別支援学教育実習にて、社会的な壁により働くが叶わない子どもたちの存在と、仕事の選択肢の少なさに衝撃を受ける。2013年、株式会社LORANS.(ローランズ)を設立し無店舗タイプのフラワービジネスを開始。2016年、一般社団法人ローランズプラスを設立し就労継続支援A型事業所を開所。都内に3店舗あるフラワーショップをはじめとした従業員60名のうち45名は障がいや難病と向き合うスタッフを雇用し、日々運営を行っている。2019年、東京都国家戦略特区と連携し「障がいの共同雇用」開始のため、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合を設立。障がい者雇用にハードルを感じる中小企業とチームとなり、新しい雇用創出のあり方を提案している。
スポーツビジネスの社会貢献活動がヒントに
福寿満希さんが23歳のときに起業した「ローランズ」。社会的役割を基盤としたお花屋さんとして、『誰もが自分色に花咲く社会を作る』をミッションに掲げ、『色のある事業を通じてマイノリティの働く壁を取り除く』をビジョンに取り組んでいる。
ローランズは、東京都内に店舗をおき、切り花販売、フラワーギフトやブライダル装花の制作、法人向けの定期装花や観葉植物のイベントレンタル、植栽の管理などを行なっている。同社では、こうした業務すべてに、障害当事者が関わっているという。
(ローランズHPのスクリーンショット)
福寿さんはどのようにして、社会課題解決とビジネスを融合させてきたのか。
大学でスポーツマネジメントを学んだ福寿さんの前職は、プロ野球選手のマネジメントだった。そこでの経験が起業のヒントになったという。
「プロ野球選手の社会貢献活動をつくる仕事をしていたとき、本当に困っている人に必要なものを届けることができ、事業モデルをつくることで継続した活動にできることを知って感激したんです。
社会貢献活動をしたくても、ボランティアでは空いている時間でしかできないので限界があると感じていました。でも、仕事として取り組むことができれば、継続してやっていけるということがわかりました。
また、障害当事者が働く現場というと、暗くて、狭くて、遠くて、色で例えるとグレーカラーな印象があって。それを明るく変えたい、働く中でも心がときめくような職場づくりをしたいと思ってやってきました」
障害があってもできることはたくさんある
ローランズで、初めて取り組んだ社会事業は、花の再資源化プロジェクトだ。傷がついたり、花束やアレンジメントを制作する際にゴミとして出されてしまったりする花や茎を、チップ状にして紙に変えていく。
これは福寿さんが花屋さんで修行をしていたときに、捨てられてしまう花や茎を見て「もったいない」「繊維があるなら何かをつくれないか」と考えたところから始まったという。
間伐材から紙をつくっている取り組みを知り、それを参考に花で紙作りを行い製紙にできたことから、花の再生紙をエコ名刺やハガキとして販売。売上は、次の花の再資源化費用と新たな雇用の創出に活用している。
(写真 福寿満希さん)
「商品が売れれば、その分さらに社会課題解決に取り組めるという手応えがあり、この仕事に夢中になっていきました。経験から学んだのは、社会課題ありきでビジネスをつくろうとすると、難しい。でも、私たちだからこそできる花や緑のビジネスに社会課題を取り入れていくスタイルなら、実現しやすいということでした」
やがて、障害者の雇用創出に取り組むことになる福寿さんだが、課題意識が芽生えたのは、大学生のときだったと振り返る。
「教員免許を取得するため、特別支援学級の教育実習に行く機会がありました。そこで、障害を持つ子どもたちが、『パイロットになりたい』など、夢を語るのを聞きました。当時、障害を持つ人の就職率はわずか15%。彼らの夢である『働く』が、叶うといいなと思っていました」
起業してから3年目、障害者施設で花のレッスンをした際に、また新たな発見があった。
「施設の方からは、特に精神障害を患うとその後の社会復帰が難しいと聞きました。しかしレッスン参加者の中には手先が器用な方もいて、花を扱う上でできることがたくさんあったのです。まずは実習として、レッスンに参加していた精神障害の当事者を1名受け入れたところから、私は人を雇用することの素晴らしさを知り、さらに雇用が広がっていきました」
従業員の75%が、障害や難病を抱える人たち
2017年には、日本財団が始めた新しい就労支援のモデル構築プロジェクト「はたらくNIPPON!計画」に参加。
花・グリーン業界の障害者雇用のあり方を変えていくため、スムージーショップ併設の「ローランズ原宿店 social flower & smoothie shop」をオープンさせた。だが、その過程には当然、いろんな困難があったという。
「すべてが順調だったわけではなく、アルバイトを含む4人のスタッフが『障害者の雇用に共感できない』といって辞めてしまいました。仲間には、なぜこの問題に取り組むのかを、もっと丁寧に伝えられていたらよかったかもしれません。
でも、新たに同じ目的の仲間が集まったことで、結果として会社の存在意義が明確になったと思っています。同じ想い人と出会えたからこそ、組織として強くなれたかなと」
いま、ローランズでは従業員の75%が、障害や難病と向き合いながら働いている。福寿さんがこだわったのは組織編成のあり方だ。
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