日本の林業再生に向けて――日本の林業のジレンマ(後編)
日本の林業再生に向けて――日本の林業のジレンマ(後編)
温室効果ガス削減への貢献を期待される森林。しかし、日本の森林管理や林業を取り巻く状況は厳しい。
前編では、江戸時代から続く三重県紀北町の「速水林業」9代目・速水亨さんに、地球温暖化対策とビジネスの狭間に立つ林業の現状や課題を聞いた。後編では速水さんに、資源としてもビジネスとしても「豊かな森林」をつくり出すための糸口を語ってもらった。
三重県紀北町生まれ。速水林業代表、株式会社森林再生システム代表取締役。慶應義塾大学法学部卒業、東京大学農学部造林学研究室研究生。「最も美しい森林は最も収穫高き森林」として“地域との共生、自然との共生”をめざす。2000年に日本初の世界的森林認証制度であるFSCを取得。平成30年度第57回農林水産祭天皇杯受賞(妻の速水紫乃さんと共に受賞)
海外では投資の対象になる林業
日本政策投資銀行がまとめた日本と諸外国の林業コストの比較によれば、海外と比べて日本の林業は生産性が低いのが特徴だ。
国内の丸太価格はアメリカやオーストラリア、フィンランドと比較して大きくは違わないが、市場に出るまでにかかるコストは高めだという。
アメリカやオーストリアでは1㎥あたり2000〜3000円代で生産できるが、日本では平均で5340円かかる。
一方で森林所有者に戻るお金は、アメリカが1㎥あたり8110~8580円台、オーストリアは9530円、フィンランドは7150円なのに対して、日本は平均3580円、安い場合は1060円にとどまる。
立木(林地に立っている樹木)の価格は1980年をピークに下落している。近年はほぼ横ばいで推移しているとはいえ、ヒノキは1980年に4万2947円/㎥から2018年には6589円/㎥にまで落ち込んでいる。
素材価格も同様に1980年をピークに下落して、2009年以降はほぼ横ばいだ。ヒノキ(中丸太)の2018年の価格は1万8400円/㎥で、ピーク時の4分の1以下になっている。
生産性が低く、木材価格の下落傾向が続いてきたこともあり、林業経営への意欲が失われてきたと速水さんは分析する。では、海外の林業の現状はどうなのか。
「CO2のことを考えれば、林業は投資の対象なんです。森林に投資した場合、抜群に収益が上がっています。政府の関与が上手なんでしょう。木材を使うことに対する規制を取り払ったり、林道の整備などに取り組んだりしています。日本でも森林投資ファンドを作ればおもしろいと思います」
(写真 速水亨さん)
速水さん自身、国内に森林投資ファンドを作ろうと動いてきたが、実現には至っていない。50億、100億円の金が動く投資には広大な森林、国有林も対象となる。すると林野庁の管轄とも接するためファンドへの抵抗が強いのだ。
インセンティブが働かない?補助金の弊害とは
日本の林業を取り巻く状況は厳しいが、国が何も手を打っていないわけではない。
2019年3月には森林整備や林業振興を図るため、森林環境税(2024年度から課税)、森林環境贈与税(2019年度から譲与開始)が創設された。
森林整備や林業用機械の導入など、さまざまな助成もある。「いま林業には補助金や助成があり、半公務員のような状態です。賃金は決して高いとは言えないですが、食べていくことはできるんです」と速水さんは話す。
一方で、林業を合理化することに対するインセンティブ(報奨、動機づけ)がなくなってしまうという弊害もある。
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