「獣害被害に遭う地域に住むのは高齢者ばかり」という課題――獣害対策の専門家が考える野生動物との共存とは(後編)
「獣害被害に遭う地域に住むのは高齢者ばかり」という課題――獣害対策の専門家が考える野生動物との共存とは(後編)
野生動物が出没する地域は山側や農村部などが多く、そこに暮らす人たちの高齢化も問題になっている。獣害被害につながる農地や木、空き家などを、適切に管理することがむずかしくなっているのだ。
「若者がその地で農業で稼ぎ、安心して生活できれば農地も活用でき、ひいては野生動物を守ることにもつながるのではないか」。そう考えるのは、長岡技術科学大学准教授であり、野生動物の獣害対策支援に取り組む株式会社うぃるこ代表取締役の山本麻希さんだ。
後編では山本さんに、都会と田舎の野生動物に対する考え方の違いや、獣害被害を受けやすい地域における課題、獣害問題を解決するためにできることなどについて話を聞いた。
※本記事は、「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2/3のライブ勉強会『【動物との共生vol.2〜駆除される動物〜】「害獣」を「野生動物」に戻す獣害対策とは』の内容をもとに記事化した後編です。
長岡技術科学大学の准教授として地域の獣害対策に関わる傍ら、2011年に獣害対策の支援団体(現NPO法人新潟ワイルドライフリサーチ)を設立。また2015年より、一般社団法人ふるさとけものネットワークの代表として、獣害対策のプロをつくる「けもの塾 」を開催している。2018年、VCファンドからシード出資を受け株式会社うぃるこを設立し代表取締役に就任。科学的アプローチと、培ってきた現場力を武器に「野生動物と人間の共存」を目指して活動している。
過疎高齢化と獣害対策の関係性
獣害対策について考えるとき、都会と田舎に暮らす人では、やはり当事者意識に温度差があると山本さんは言う。
「私が住む新潟県長岡市の山側の地域では、庭にある柿の木に毎日のように熊が来ている、という人もいます。住人も『また来たか』という感じで、いちいち驚かない。一方で、都会に熊やイノシシが出るとみんなとてもびっくりしたり、目撃談が出て話題になったりしますよね。
都会の人が野生動物を殺す映像などを見ると『かわいそう』という気持ちが芽生えるかもしれません。ですが、獣害の被害に遭っている農村部の人は必ずしも同じ気持ちではなくて『野生動物は殺すべき』『山に熊や猿を放つな』という発想をする人も少なくないんです。
私は、農作物を守るためだけに動物の命が失われるのは違うと思っています。電気柵を張るなど、殺さずに撃退する方法がある。現在は国の補助金で導入できるのですから、少し手間をかけてでも設置する労力を惜しまないほうが、人間も動物も幸せになると思うんです。
それに、有害捕獲の費用も税金で賄われていますし、たとえば猿の場合、むやみに殺すとかえって管理がうまくいかなくなることもある。結局、殺すことが命と税金の無駄遣いになってしまいます」と、山本さんは話す。
また、野生動物が生息するような地域で暮らしたり、そこで農業を営んだりしている人のほとんどが、高齢者という現状もある。
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