「寄り添う」とはどういうことか――認知症に必要なケアのあり方とは(後編)
「寄り添う」とはどういうことか――認知症に必要なケアのあり方とは(後編)
前編では、「こうあるべき」というある種のステレオタイプに基づくサポートが、「その人らしさ」を損なってしまうこともあると触れた。
私たちは長年の生活の経験から、たとえば「食事は箸を持って食べるもの」だとか、「夜は布団で寝るもの」だといったような無意識のバイアスにとらわれている。しかし、認知症ケアにおいては必ずしもそれが正解とは限らない。
後編では、その認識にもとづいて現場で活用されている方法論について、社会福祉法人福祥福祉会理事長の阿久根賢一さんに話を聞いた。
※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/4/28のライブ勉強会「認知症患者の世界観とどう向き合う?」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
1976年生まれ。大学では、社会福祉を専攻し、卒業後、高齢者施設にてソーシャルワーカーとして勤務。2002年より社会福祉法人福祥福祉会が開設する特別養護老人ホーム豊泉家北緑丘の立ち上げよりソーシャルワーカーとして参画。その後、施設長、運営本部長、副理事長を経て2017年より社会福祉法人福祥福祉会 理事長。
取得資格:社会福祉士・介護福祉士・介護支援専門員
その他:社会福祉法人 天森誠和会 理事・一般社団法人 日本棒サッカー協会 理事長・青森大学 客員教授 等
認知症の人の生きる世界を見る
私たちは過去から現在、現在から未来といったように連続した時系列を認知し、その中で生きている。だからこそ計画や予測をしながら行動ができる。
しかし、認知症における認知機能の低下という中核症状は、この時間の流れを混乱させてしまう。自分がいま「いつのどこ」にいるのかがわからなくなってしまうことで、いま目の前で起こっていることが正しく理解できず混乱することがある。
阿久根さんはその混乱状態に対し、「ロジカルケア」と「ラテラルケア」という二つのアプローチを実践している。
まずロジカルケアは、混乱した時系列のなかにいる認知症の人の「その場その場の理解」を助けることで、本人の納得度を上げていくものだという。
中核症状の中には、記憶力の低下や判断力の低下、また言語理解が難しくなる「失語」や、道具などの使い方がわからなくなる「失行」、そして五感による認知・理解が難しくなる「失認」などがある。ロジカルケアでは、それぞれの症状に応じた代替的な伝え方で理解を支える。
ロジカルケアについて、阿久根さんはいくつかの事例を紹介する。
食事後、食堂から入居者が出た後に清掃をしているとき、一人の入居者が食堂に来て「いまはお掃除の時間ですよ」と伝えても、掃除のために上げてある椅子を下ろしてまた座ってしまうということがあった。
そこで、食堂の入り口に「ただいま掃除中です」という文字を書いた看板を出したところ、その人は納得して清掃時間に食堂に立ち入らなくなった。
そのほかにも、洗濯をする衣類をタンスに戻してしまったり、かばんの中に入れてしまう入居者もいた。「汗をかいて汚れたら着替えなければいけない」ということはわかるが、その後どうすればいいかわからない「失行」の例だ。
このケースでは、洗濯をする衣類を入れるかごに「脱いだ衣類はここにいれてください」と書いた紙と写真を付けたことで、このような行動は起こらなくなった。
認知症になると、新しくなにかを覚えることが難しい。ロジカルケアは覚えてもらうのではなく、その瞬間瞬間の理解を助けることがポイントなのだ。
(pixabay)
本人の見る世界に入っていく「ラテラルケア」
一方のラテラルケアは、「前提をなくして水平的・多角的に物事を考える」という「ラテラルシンキング」の考え方を応用したもの。ここでいう前提とは認知症でない人の持つ常識や固定観念を指す。
阿久根さんはラテラルケアについて「私たちがその方の世界に入っていくこと」であると言う。前編で紹介した、手づかみで食事をする人の行動を否定せず、無理に箸やスプーンをもたせることをやめたというのは、まさにラテラルケアの一つだ。
私たちが生活のなかで無意識に身に着けた「こうあるべきもの、こうするべきもの」という固定観念は、認知症の世界ではときに通用しない。それを押し付けてしまうことはある意味拷問ですらあると阿久根さんは言う。
ラテラルケアについて、ほかにもこのような事例があるという。
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