「いじめ」を学びにつなげる支援とは――いじめ問題との向き合い方(前編)
「いじめ」を学びにつなげる支援とは――いじめ問題との向き合い方(前編)
文部科学省によると、令和元年のいじめ認知件数は61万2496件。認知した学校の数は実に全学校の82.6%に上る。
2006年には12万4898件だったことを踏まえると、悪化の一途を辿っているようにも見える。しかし、横浜創英中学・高校の工藤勇一校長は「いじめの定義が広くなったことで認知件数が増えている。また、いまは調査の目的が『苦しんでいる人を探し出す』ことに変わってきているため、件数が増えるのは正しい傾向でもある」と指摘する。
今回は「いじめ」に対する捉え方や向き合い方のあるべき姿について、工藤さんに伺った。
※本記事の取材は2021/6/3に行われた「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」のライブ勉強会兼、いじめ問題を取り巻く構造を問題と捉え変革を目指す「いじめ構造変革プラットフォーム(PIT)」定例会で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
1984年から山形県の中学校で教員を5年間務めた後、1989年から東京都の教員になる。その後、東京都や目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを歴任。2014年に麴町中学校の校長に就任すると、宿題や定期テスト、頭髪・服装指導、担任制をすべて廃止。世の中の「当たり前」をやめるという学校改革で話題沸騰になった。2020年からは横浜創英中学・高等学校で校長を務める。
トラブルを学びに変える支援
工藤さんによると、いじめ問題が大きく注目を浴びる度、文部科学省は学校で発生したいじめを見落とすことのないよう定義を広げ、毎年調査を重ねてきた。
「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じている者であって、学校としてその事実を確認しているもの」
2013年
「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のあるほかの児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」
つまり、現在の認知件数の中には昔の定義ではいじめだと認められなかったものも数多く含まれており、それが件数を押し上げた大きな要因となっているという。
文科省の調査は「最初はいじめをゼロにするためのものでしたが、いまは苦しんでいる人がいないかを探し出す調査なんです」と、工藤さんは話す。
工藤さんが新宿区の教育委員会に在籍していたとき、同区は人口比率でのいじめ認知件数が最も多かったという。
「これは僕が『とにかくすべての数を上げてください』と学校にお願いした結果です。いじめというのは大人に見えないようにやるもので、もともと見えづらいものです。
でも最悪の場合、子どもが命を失ってしまうこともあるんです。だからこれは数の大小が大事なんじゃなくて、子どもがどんな様子なのか、みんな敏感になってほしいということなんです」
ただ、「いじめに対していまでも昔の定義のような印象を持っている人もいれば、日常のトラブルという印象を持っている人もいる」ことが、問題を大きくしてしまうこともあるという。
本来「単なる日常的なトラブル」などとして子ども間で解決できるようなケースでも、片方が「いじめ」と認識し、過剰に反応してしまう場合があるからだ。
工藤さんは「一番大事なことは、子どもが自分の足で人生を歩んでいくこと」と話し、自律の重要性を訴える。
「子どもたち同士の間では、絶対にトラブルが起こります。それを『いじめ』だと特定することは重要ではなく、まずはそこにどんなトラブルが発生しているかを把握し、そのトラブルは子どもたち同士で解決できるのか、できないのかを大人が見極めていくことが大事です。
そして、トラブルを起こした子どもたちがよりよい生活を送れるよう、トラブルを学びに変えていく。大人は、そのための支援はどうすればいいんだろうということを考えていかなくちゃいけないんです。
そうすれば子どもはトラブルが発生すればするほど、親や教師を信頼するようになり、学校を安全な場所だと思うようになります」
(PAKUTASO)
子どもへの問いかけで当事者意識を育てる
子ども自身に対しては、「解決する当事者だという意識を高めていかなければいけない」と工藤さんは話す。
「いじめはすべて大人が解決するものだと勘違いしてる子どもがたくさんいます。それを当たり前だと思うようになると、解決できないことが出てきたときにほかの誰かのせいにするようになります」
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