住民一人ひとりの当事者意識を育む「社会教育士」とは――地域課題を解決に導く存在とその使命(前編)
住民一人ひとりの当事者意識を育む「社会教育士」とは――地域課題を解決に導く存在とその使命(前編)
2020年度、文部科学省(以下文科省)は「社会教育士」という制度を新設した。
文科省のホームページによれば、社会教育士には「地域の思いに寄り添った長期的な地域づくりのビジョンを持ち、地域活動や市民活動を持続的に展開していく役割が期待されている」とある。
では、そもそも社会教育士とはどのようなものなのか。今回は社会教育士や社会教育の振興に関する業務に携わっている文科省の吉村奏さんと、実際に社会教育士として島根県益田市で活動している山﨑萌果さんに話を聞いた。
(提供 文部科学省)
※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/6/18のライブ勉強会「『社会教育士』の仕事に迫る」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。
1996年生まれ。大阪府出身。高校で出会った先生に憧れ、高校の英語科教員を志す。大学在学中に、教育を学びたいと1年間フィンランドに留学したことを転機に、公教育だけでない教育のあり方に関心を持つように。卒業後Demo(武田緑事務所)に参画し、エデュコレ・EDUTRIPなどの運営に関わる中で、島根県の魅力化事業に出会う。コーディネーターという立場で探究学習に関わることを通して、人と人が共に学び合い続ける社会を創っていきたいと思うようになり、2020年4月より島根県益田市に移住。同時期に立ち上がった一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー(ユタラボ)の職員となる。その後半年間、島根大学の社会教育主事講習を受講し、社会教育士・地域教育魅力化コーディネーターの称号を取得(※地域教育魅力化コーディネーターは島根大学独自の称号)。今年度は本講習にサポーターとして、運営にも携わっている。
2019年文部科学省入省。学びを通じた地域づくりをミッションにする地域学習推進課で、社会教育の振興に関する様々な業務に携わる。社会教育士制度の推進を担当し、全国の社会教育主事・社会教育士の話を聞き、実践に密着しながら、PR動画や特設サイト等の制作、noteの記事執筆などの広報を展開し、社会教育士や社会教育の魅力発信に向け日々奮闘中。趣味は週末農業。
豊かな地域をつくる「社会教育士」
社会には、学校教育以外にも多く学びの場が設けられており、それらは「社会教育」と呼ばれている。
教育基本法によれば、社会教育とは「学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーションの活動を含む)」とされている。
地域の課題を解決するために場をつくって話し合うのも、カルチャースクールや図書館・公民館でイベントを開催したりそれに参加するのも、すべて「社会教育」に当てはまる。
「社会教育という言葉は知らないけれど、実は社会教育活動をしているという人はたくさんいます」と吉村さんは話す。
もともと教育委員会には、こうした社会教育活動を行う者に対して専門的・技術的な助言、指導をする「社会教育主事」という職員を置くこととされている。
社会教育士制度は、この社会教育主事になるために修得すべき科目等を定めた社会教育主事講習等規程の一部改正によってできた制度だ。
改正のポイントは大きく二つあり、一つは修得すべき科目が変更・改善されたこと、そしてもう一つは講習を修了した者等が「社会教育士」という称号を名乗れるようになったこと。
特に後者について、吉村さんは「これまでは『社会教育士』というような称号が無かったことで、その存在の必要性を伝えたり、講習で身につけた社会教育の専門性を認知してもらえないという課題がありました」と話す。
また、社会教育士の役割を吉村さんは次のように説明する。
「地域では住民同士のつながりが弱まり、孤立化や子どもの貧困など、たくさんの課題が出てきています。これらの課題は当事者だけが努力すれば解決できるものではなく、地域に住む一人ひとりが当事者意識を持たないと解決できないと考えています。
そのためには『忙しい』『面倒だ』『自分には関係ない』と思っている人たちにも前向きな気持ちを持ってもらうことが必要で、社会教育士はそのためのきっかけづくりを『学びを仕掛ける』ということを通して行っています。
そして、そういったきっかけとなる『学び』を社会のいたるところに仕掛け、豊かな地域づくりへの展開を支援していく。それが社会教育士の役割です」
(写真 吉村奏さん)
先生ではない立場でも教育に携われる
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