no.
194
多胎児家庭の困難
2021/10/22(金)まで無料公開
「見えにくい」ゆえの困難と現状――多胎児家庭の孤立に迫る(前編)
2021/10/22(金)まで無料公開
no.
194
多胎児家庭の困難
2021/10/22(金)まで無料公開
「見えにくい」ゆえの困難と現状――多胎児家庭の孤立に迫る(前編)
2021/10/22(金)まで無料公開

双子や三つ子など、同時に複数の子どもを妊娠することを「多胎」という。

 

一人が産まれる単胎も多胎も、妊娠・出産・子育てにおいてさまざまな大変さがあることは間違いない。しかし、多胎の場合はさらに特有の医学的・社会的な困難が発生することは、まだまだ知られているとはいえない。

 

前編では、多胎児家庭の支援を行う一般社団法人「関東多胎ネット」理事・多胎ファミリーの会「Tokyo Twins Mommy」代表で、自身も年子と双子の三人の子育てをしている髙濱沙紀さんに、多胎妊娠の医学的リスクや、外からは見えにくい多胎児家庭特有の困難さについて、それらを取り巻く背景も含めて聞いた。
 

 

※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/9/24のライブ勉強会「なぜ見えない?多胎児家庭の孤立に迫る〜双子や三つ子を育てるということ〜」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。

 

<髙濱沙紀さん>
一般社団法人関東多胎ネット理事/都内多胎ファミリーの会Tokyo Twins Mommy代表。
年子で双子を出産し25歳で3児の母となる。双子妊娠中にTokyo Twins Mommyを立ち上げるが、多胎支援の無さ、地域格差を痛感し、関東圏内の多胎サークル代表達と関東多胎ネットを設立。

多胎児の出産や支援の現状

厚生労働省によれば、双子・三 つ子などの多胎出産の件数は2017年には約9900件だった。同年の出産件数が全体で94万1000人であることを考えると、多胎出産の確率は約1%。100人の母親のうち1人は双子や三つ子を出産するということになる。

 

また近年の不妊治療の発達や普及も、多胎妊娠の増加と関係していると考えられている。

 

これは排卵誘発剤を使用した場合、複数の卵子が同時に受精する可能性があることや、体外受精で妊娠率を高めるため、複数の受精卵を子宮に移植する方法が採られることがある、といった背景がある。

 

そうした状況であるにも関わらず、多胎妊娠の医学的リスクなどについてだけではなく、多胎児を育てることの難しさ、大変さも社会に認知されているとは言い難い。

 

年子と双子の三人の子育てをしている髙濱さんは、こう話す。

 

「多胎育児はマイノリティ育児と言われることもあります。1%と少ない中での孤立感、孤独感もあります。妊娠中にインターネットで情報収集したりもしましたが、やはり情報も少ないんです」

 

(写真 髙濱沙紀さん)

  

 厚生労働省は多胎妊婦や多胎児家庭への支援を手厚くする方針を明らかにしており、すでに各自治体の「育児サポーター事業」に対して一定額の補助を行うなどの対応を始めている。

 

育児サポーターとは、妊娠中や出産間もない母親のもとに育児経験を持つ保育士等が訪問し、育児の相談に乗ったり直接的なサポートを行ったりする無料の福祉サービスだ。

 

自治体によってはさらに多胎児家庭を対象とした支援制度を用意しているところもあるが、その数は決して多くないうえ、都市部と地方で支援の有無や充実度が変わるなど、地域格差もある。

 

また多胎児の出産件数が少ないため、単胎児の子育てのように経験者や専門家に気軽に悩みを相談したり経験を聞いたりする機会も少ない。

 

多胎児の子育てサークルである「多胎サークル」は、孤立しやすい傾向にある多胎児家庭に対し、当事者同士がつながり合い、情報や経験、思いを共有するための場をつくる草の根的な活動を行っている。

多胎出産の医学的リスクと支援の課題

多胎妊娠・出産の医学的リスクについて、髙濱さんは「双子といえば一卵性双生児や二卵性双生児だと思うところですが、大事なのは『卵性』ではなく『膜性』なんです」と話す。

 

膜性とは胎児を包む膜の状態をいい、下記の3つに分類される。

 

・一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)
・一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)
・二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)

 

絨毛膜とはいわば胎児の育つ家であり、羊膜はその中の部屋ということになる。

 

たとえば一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)は、同じ空間で胎盤を双子が共有している状態。この場合はへその緒が絡まったり栄養の偏りが生じたりと、特にリスクが高い状態だといわれている。

 

一卵性双胎の場合は、胎児間の血液バランスが崩れる「双胎間輸血症候群(TTTS)」と呼ばれる特有の疾患がある。治療なしでは二人とも命を落としてしまうといわれる。

 

「実はうちの双子もこのTTTSになってしまい、すぐに出産しなければいけなくなって、早産で産まれてきています」と髙濱さんは話す。

 

(写真AC)

 

多胎妊娠は低体重出産や流産のリスクも高く、NICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児回復室)といった専門の設備がある医療機関でなければ分娩ができない場合もある。

 

「双子の妊娠が分かったときの病院は大きな総合病院でしたが『双子はここでは産めない』と言われ、まず転院するところから話が始まりました」

 

妊娠生活も一般的な単胎妊娠のそれとは異なる。医師の方針や妊娠の状態によっては「管理入院」をしなければならない場合がある。

 

「絶対安静で24時間点滴を受ける『管理入院』になる方も4割ほどいらっしゃいます。産休前に入院になることも珍しくありません」

 

さらに髙濱さんはこう続ける。

 

「最初に『ハイリスクの妊婦なので運動しないでください。多胎妊娠に安定期はありません』と断言されました。また長女が当時7ヶ月でしたが『絶対に抱っこしないでください』と言われました。お腹が大きくなるので、抱っこをすると切迫早産のリスクが高まってしまうんですね」

 

また妊婦健診を公費で受けるための受診券があるが、交付されるのは子ども一人あたりではなく、母体につき一冊。多くの検査が必要な多胎妊娠の場合、すぐに受診券がなくなってしまい、実費負担となるケースも多い。

多胎児家庭の日常と困難、そして社会とのつながり

「もちろん双子・三つ子ならではの育児の楽しさもあります。私の場合は『子どもまみれになる』ところがすごく楽しくて。あとは双子だと目立つので、近所の人が覚えてくれていて『おっきくなったね!』とか『飴あげるよ!』とか、声を掛けてくれることもあります」

 

一方、複数人を同時に育てることについて、髙濱さんはこう話す。

 

「『エンドレス育児』になりがちです。産後すぐ待っているのは2時間ごとの授乳を二人分。単純計算すると単胎児は1日に12回、双子の場合24回、三子ですと36回です。

 

さらにおむつ替えや着替えなどでずっと育児をしている。4徹したこともありました。腕が千手観音のようにたくさんあれば泣いている子どもたちをみんな抱っこできるのにと、泣きながらなんとか三人抱っこしていたこともあります」

 

(写真AC)

 

また髙濱さんらの聞き取りでは、多胎児家庭の感じる大変さで多かったのが「移動困難感」。双子を連れて外出することに困難を感じる人が多いのだという。

 

「双子用ベビーカーは10kg〜15kgあります。さらに二人分の荷物をしっかり準備すると10kgくらい。さらにそこへ子ども二人が乗る。その状態で公共交通機関に乗るのは非常に大変です」

 

やっとのことで公共交通機関にたどり着いても乗れないことがある。2019年頃、双子用ベビーカーで東京都営バスに乗ろうとした人が乗車拒否をされたというSNSの投稿が話題になった。そもそも、長年の間多胎家庭の中では、双子用ベビーカーでのバス乗車は不可能、との認識となっていた。

 

これをきっかけに社会福祉分野のNPOなどが中心となって国や自治体に働きかけ、2020年9月から双子用ベビーカーに子どもを乗せたままバスに乗車できるように体制が変わっていった。

 

このように当事者の声で状況が改善されることもあるが、実際に多胎児家庭の当事者が声を上げることは簡単ではないと髙濱さんは話す。

 

「育児が過酷過ぎてそれどころではないという方が多い印象です。

 

同じような経験を持っている人と体験を共有できて『そうだよね。これはおかしいよね。じゃあ声を上げよう』となればいいのですが、マイノリティであるがゆえに横のつながりもつくりにくく、共感し合えない。

 

結局『私だけの問題なんだ』と我慢してしまうパターンが多いように感じます」
 

 

・・・後編「知ることから始まる『子育てのしやすい社会』ーー多胎児家庭の孤立に迫る」に続く

 

 

編集長からのメッセージ
×
CONTENTS
intro
ホームレス
no.
1
no.
2
若年介護
no.
3
no.
4
奨学金
no.
5
no.
6
差別
no.
7
no.
8
観光
no.
9
no.
10
子どもの臓器提供
no.
11
no.
12
都市とコロナ
no.
13
no.
14
ICT教育
no.
15
no.
16
産後うつ
no.
17
no.
18
宇宙
no.
19
no.
20
戦争
no.
21
no.
22
人工妊娠中絶
no.
23
no.
24
緊急避妊薬
no.
25
no.
26
テロリスト・ギャングの社会復帰
no.
27
no.
28
社会起業家
no.
29
no.
30
海上自衛隊
no.
31
no.
32
プロジェクト
no.
33
ソーシャルビジネス
no.
34
教員の多忙化
no.
35
no.
36
性的マイノリティ
no.
37
no.
38
出所者の社会復帰
no.
39
no.
40
ワクチン
no.
41
no.
42
薬物依存
no.
43
no.
44
性の悩み
no.
45
no.
46
リブランディング
no.
47
no.
48
少年犯罪
no.
49
no.
50
学校教育
no.
51
no.
52
LGBT
no.
53
no.
54
スロージャーナリズム
no.
55
no.
56
ソーシャルセクター
no.
57
no.
58
教育格差
no.
59
no.
60
メディア
no.
61
大人の学び
no.
62
no.
63
地方創生
no.
64
no.
65
家族のかたち
no.
66
no.
67
他者とのコミュニケーションを考える
no.
68
no.
69
地方創生
no.
70
no.
71
地方創生
no.
72
no.
73
非正規雇用と貧困
no.
74
no.
75
他者とのコミュニケーションを考える
no.
76
no.
77
家族のかたち
no.
78
no.
79
他者とのコミュニケーションを考える
no.
80
no.
81
地球温暖化対策
no.
82
no.
83
就労支援
no.
84
no.
85
1年の振り返り
no.
86
no.
87
動物との共生
no.
88
no.
89
行政のデジタル化
no.
90
no.
91
温暖化対策
no.
92
no.
93
動物との共生
no.
94
no.
95
地方移住
no.
96
no.
97
動物との共生
no.
100
no.
101
温暖化対策
no.
102
no.
103
組織論
no.
104
no.
105
キャリア
no.
106
no.
107
復興
no.
108
no.
109
コミュニティナース
no.
110
no.
111
MaaS
no.
112
no.
113
地球温暖化
no.
114
セックスワーカー
no.
115
no.
116
感染症とワクチン
no.
117
no.
118
大学生の貧困
no.
119
no.
120
温暖化対策
no.
121
no.
122
同性婚
no.
123
no.
124
フェアトレード
no.
125
no.
126
シェアハウス
no.
127
no.
128
飲食業
no.
129
感染症とワクチン
no.
130
no.
131
国際報道
no.
132
no.
133
社会的養護
no.
134
no.
135
認知症
no.
136
no.
137
入管法
no.
138
no.
139
国際問題
no.
140
no.
141
コミュニティ
no.
142
no.
143
コミュニティ
no.
144
no.
145
コミュニティ
no.
146
no.
147
吃音
no.
148
no.
149
コンサル×社会課題解決
no.
150
no.
151
いじめ
no.
152
no.
153
社会課題×事業
no.
154
no.
155
社会課題×映画
no.
156
no.
157
感染症とワクチン
no.
158
no.
159
社会教育士
no.
160
no.
161
山岳遭難
no.
162
no.
163
支援者支援
no.
164
no.
165
いじめ
no.
166
no.
167
ゲーム依存
no.
168
no.
169
トランスジェンダーとスポーツ
no.
170
no.
171
うつ病患者の家族
no.
172
no.
173
パラスポーツ
no.
174
no.
175
代替肉
no.
176
no.
177
弱いロボット
no.
178
no.
179
戦争継承
no.
180
no.
181
女性の社会参画
no.
182
no.
183
子どもの居場所
no.
184
no.
185
感染症とワクチン
no.
186
no.
187
デジタル社会
no.
188
no.
189
若年女性の生きづらさ
no.
190
no.
191
ゼブラ企業
no.
192
no.
193
多胎児家庭の困難
no.
194