no.
208
優生思想
2021/12/15(水)
「生産性」という言葉が蝕む社会――優生思想と向き合う(前編)
2021/12/15(水)
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208
優生思想
2021/12/15(水)
「生産性」という言葉が蝕む社会――優生思想と向き合う(前編)
2021/12/15(水)

2016年7月、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刺殺される事件が起こった。
事件を起こした犯人、植松聖(さとし)被告は、犯行動機について「障害者はいなくなった方がいい」「私が殺したのは人ではない」などと語り、障害者が生きる権利を否定した。

2020年7月、有名ミュージシャンがSNS上で「大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないか」と発言し、多くの批判を受けた。

このようなヘイトクライム・差別発言の背景には「優生思想」が潜んでいると言われている。
優生思想とは、生産性の高さや障害の有無などによって人間を「優れた人間」と「劣った人間」に区別し、「劣った人間」は社会から排除してもよい、という考え方である。

30年以上にわたってホームレスの方々の自立支援を行ってきたNPO法人抱樸 理事長の奥田知志さんと、リディラバ代表の安部が、この「優生思想」をテーマに対談。
前編では優生思想とは何か、そして優生思想を乗り越えるために必要な「生産性」の再定義について語った。

※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた「優生思想と向き合う〜誰もおいていかない社会とは〜」で行われました。
リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。

 

奥田 知志さん(NPO法人抱樸理事長、東八幡キリスト教会牧師)
1963年生まれ。関西学院神学部修士課程、西南学院大学神学部専攻科をそれぞれ卒業。
九州大学大学院博士課程後期単位取得。1990年、東八幡キリスト教会牧師として赴任。同時に、学生時代から大阪釜ヶ崎で始めた「ホームレス支援」に北九州でも参加。事務局長等を経て、北九州ホームレス支援機構(現 抱樸)の理事長に就任。これまでに3640人(2021年3月現在)以上のホームレスの人々の自立を支援。


安部敏樹(株式会社Ridilover代表取締役/一般社団法人リディラバ代表理事)
1987年生まれ。2009年、東京大学在学中に社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム「リディラバ」を設立。2012年度より東京大学教養学部にて、1・2年生向けに社会起業の授業を教える。特技はマグロを素手で取ること。
これまで350種類以上の社会問題をテーマにツアーを企画した実績があり、10,000人以上を社会問題の現場に送り込む。また近年では、中学・高校の修学旅行・研修や企業の人材育成研修などにもスタディツアーを提供している。

いつでも誰にでもある
「優生思想」の普遍性

 安部  最近ではDaiGoさんの「ホームレスの命はどうでもいい」発言がありましたが、インターネット空間を中心に差別的な発言は日常化しています。
背景のひとつには、人の命に優劣をつける「優生思想」があると言われていて、今日はこの「優生思想」をテーマに奥田さんと議論していきます。

 奥田  よろしくお願いします。

 安部  まず、この優生思想がどれだけ社会に浸透しているのかという意味で、日本の法律からはどんなことが見て取れますか。

 奥田 :日本では1948年に優生保護法という法律が施行されます。
これは「不良な子孫の出生を防止する」目的で、特定の疾病や障害を持った人へ強制的な不妊手術を認めた法律です。

 安部  強制的ということは、親の意思や胎児の権利を認めないわけですよね。
優生思想が露骨に現れた法律だと思うんですが、問題にならなかったんでしょうか。

 奥田  後にこの優生保護法は憲法違反と認められて、1996年に「母体保護法」という法律に変わりました。ただ、この母体保護法でも、「女性の生命・健康を守るため」という理由で強制不妊手術や人工中絶を認めています。

性被害に対応する意味もあるので、中絶の是非は置いておきますが、問題なのは「障害や疾病がある人は社会の益にならない」「社会全体の益にならない人間は排除して良い」という優生思想がまだ拭えていないんです。

 安部  ナチス・ドイツによるホロコーストへの反省もあって、誰の命も重要だ、優生思想は誤りだ、という考え方は第二次世界大戦後の社会で共通認識があったと思うんです。
にもかかわらず、優生保護法は1996年まで続き、新しい法でも途切れずに優生思想の文脈を受け継いでいるっていうのに違和感を覚えるのですが、なぜなんでしょう。

 奥田  優生思想って、この社会にずっとあるんです。非常に普遍的で、時代や境遇を問わず常に社会にある。

 安部  例えばどういう事例から、優生思想の普遍性を感じますか。

 奥田  第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツでは、共産主義者や新聞社、教会などが、「思想」を理由に迫害されました。
同じく大戦中の日本では、老人や子供が、戦力にならないからと「効率性」を理由に、手をかけられた話もあります。

優生思想は、障害者だけをターゲットにしているわけではなくて「その時の社会の役に立たない、価値観に合わない人間は排除する」という普遍性を持っています。



(抱樸 奥田 知志さん)

 

「社会にとって有益か」
生産性追求の功罪

 安部  戦時中には「効率性」を追求した結果、子供や老人を迫害してしまったというのは非常に示唆深いですね。
というのも、戦争中における効率性って、今では経済的な生産性に姿を変えて、戦時中と同じように徹頭徹尾、社会の隅々まで浸透していると思うんです。

生産性を追いかけた結果として今の豊かな生活がある、恩恵を受けている側面もある中で、僕らはどこまで生産性の追求を続けるのかなと。

 奥田  恩恵の話はおっしゃる通りで、生産性の追求を一概に否定する必要は無いと思います。
ただ、今の世の中で「生産性」が何を意味するかと言うと、端的には「金儲け」。稼げるかどうかが生産性の有無を決めています。

私は、この生産性を再定義すればいいんだって考えていいます。

 安部  生産性の再定義。

 奥田  「障害児の父」と呼ばれる糸賀一雄さんという方がいます。
彼が活動していた1950年代においても、知的障害者は働けないので生産性が無いと言われていました。
そんな中、糸賀さんは「生産性の高い社会っていうのは、その人がその人として自己実現ができる社会のことだ」と主張したんです。

 安部  知的障害者は生産性がないと言うのは、僕たちが生産性を経済性だけで判断しているからだと。

 奥田  そうです。約15年前、私たちがホームレス支援施設を作ろうとした時に、近隣住民が猛反対した理由も同じく「生産性が低い施設を作るな」というものでした。

ただね、例えば私が支援していたホームレスの方には、
「奥田さん、私は毎晩、もう二度と目が覚めませんように、ってお祈りしているんです。自分で死ぬ勇気はないけど、このまま目覚めたくないなって」
と言っていた方もいたわけです。

私が地域住民の反対を押しのけて支援施設をオープンしたところ、彼は「この社会でもう一度生きてみよう」と思えるようになりました。
これって生産性が高いって言わないのか、という話なんです。

 安部  明日死んでしまいたいと思ってた人が、再び生きたいと思うようになる。これって本来は非常に大きな変化ですよね。でも今の社会では、お金にならないから生産性がないとされてしまう。

似たような話で、近年、都内の青山あたりに土地があいて、そこに保育園をつくる計画がありました。この保育園建設に関しても同様に「こんなに高価な土地に何を建てるんだ」と地域住民から反対運動が起きたんです。

「ホームレスの施設は嫌だ」とか、特定の誰かを差別しているというより、もっと広い意味で、経済性が物事の判断基準として強くなり過ぎているという話だと思います。


(リディラバ 安部敏樹)


 奥田  だとしたら、お金を儲けて豊かになってるように見える裏で、私たちは非常に貧しい社会を作ったことになります。

 安部  その意味では、生産性の定義だけではなくて、「障害」の定義も同様に重要ですよね。
というのは、現代の障害って端的には「社会に役立つか・お金を生めるか」が基準になっていると思っていて。

 奥田  生産性と同じ考え方ですね。

 安部  そうなんです。
例えば「発達障害」は近年社会に浸透してきましたが、「発達障害」的な特性を抱えた人って昔からいたわけです。なにも近年急に生まれたわけではない。

なぜ同じ人でも今は障害者になってしまうかというと、昔の社会には、特性に応じた役割が世の中にたくさん用意されていたんですよね。
コミュニケーションは苦手だけど手先は器用な人は「職人」として生きていける、みたいに。
結果、多くの人が健常者として生活してきたわけです。


ところが今の社会は、生産性を追求していく中で、求められる仕事やコミュニケーション作法が画一化していった。当然その生産性に当てはまらない特性の人がいる時に、新しく「障害」を定義して、その人達は障害者です、としたんです。

 奥田  社会の側の都合で「障害」を規定していると。

 安部  その通りで、社会が求める生産性に付いてこれない人は「障害者」と認定されてしまうように思えるんです。

さらに今後の世の中で大変なのは、例えば僕の資産とイーロン・マスクの資産を比較すると、資本主義的な生産性は何万倍も差があることになりますよね。
テクノロジーの発展や、経済のグローバル化・即時化によって、「健常者」と呼ばれる人たちの間でも資本主義的な生産性はどんどんと差が生まれていますし、今後もこの差は広がっていきます。

こうなると、社会の求める生産性を満たすのはごく少数の人たちだけで、それ以外は生産性がないって話になってしまう。
生産性が無い人を障害者とする世の中ですから、マジョリティが「障害者」となる社会が近づいていることになります。

その意味でも、生産性とは何か、障害とは何か、経済以外にも指標を持っておく必要があると思います。

 

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CONTENTS
intro
ホームレス
no.
1
no.
2
若年介護
no.
3
no.
4
奨学金
no.
5
no.
6
差別
no.
7
no.
8
観光
no.
9
no.
10
子どもの臓器提供
no.
11
no.
12
都市とコロナ
no.
13
no.
14
ICT教育
no.
15
no.
16
産後うつ
no.
17
no.
18
宇宙
no.
19
no.
20
戦争
no.
21
no.
22
人工妊娠中絶
no.
23
no.
24
緊急避妊薬
no.
25
no.
26
テロリスト・ギャングの社会復帰
no.
27
no.
28
社会起業家
no.
29
no.
30
海上自衛隊
no.
31
no.
32
プロジェクト
no.
33
ソーシャルビジネス
no.
34
教員の多忙化
no.
35
no.
36
性的マイノリティ
no.
37
no.
38
出所者の社会復帰
no.
39
no.
40
ワクチン
no.
41
no.
42
薬物依存
no.
43
no.
44
性の悩み
no.
45
no.
46
リブランディング
no.
47
no.
48
少年犯罪
no.
49
no.
50
学校教育
no.
51
no.
52
LGBT
no.
53
no.
54
スロージャーナリズム
no.
55
no.
56
ソーシャルセクター
no.
57
no.
58
教育格差
no.
59
no.
60
メディア
no.
61
大人の学び
no.
62
no.
63
地方創生
no.
64
no.
65
家族のかたち
no.
66
no.
67
他者とのコミュニケーションを考える
no.
68
no.
69
地方創生
no.
70
no.
71
地方創生
no.
72
no.
73
非正規雇用と貧困
no.
74
no.
75
他者とのコミュニケーションを考える
no.
76
no.
77
家族のかたち
no.
78
no.
79
他者とのコミュニケーションを考える
no.
80
no.
81
地球温暖化対策
no.
82
no.
83
就労支援
no.
84
no.
85
1年の振り返り
no.
86
no.
87
動物との共生
no.
88
no.
89
行政のデジタル化
no.
90
no.
91
温暖化対策
no.
92
no.
93
動物との共生
no.
94
no.
95
地方移住
no.
96
no.
97
動物との共生
no.
100
no.
101
温暖化対策
no.
102
no.
103
組織論
no.
104
no.
105
キャリア
no.
106
no.
107
復興
no.
108
no.
109
コミュニティナース
no.
110
no.
111
MaaS
no.
112
no.
113
地球温暖化
no.
114
セックスワーカー
no.
115
no.
116
感染症とワクチン
no.
117
no.
118
大学生の貧困
no.
119
no.
120
温暖化対策
no.
121
no.
122
同性婚
no.
123
no.
124
フェアトレード
no.
125
no.
126
シェアハウス
no.
127
no.
128
飲食業
no.
129
感染症とワクチン
no.
130
no.
131
国際報道
no.
132
no.
133
社会的養護
no.
134
no.
135
認知症
no.
136
no.
137
入管法
no.
138
no.
139
国際問題
no.
140
no.
141
コミュニティ
no.
142
no.
143
コミュニティ
no.
144
no.
145
コミュニティ
no.
146
no.
147
吃音
no.
148
no.
149
コンサル×社会課題解決
no.
150
no.
151
いじめ
no.
152
no.
153
社会課題×事業
no.
154
no.
155
社会課題×映画
no.
156
no.
157
感染症とワクチン
no.
158
no.
159
社会教育士
no.
160
no.
161
山岳遭難
no.
162
no.
163
支援者支援
no.
164
no.
165
いじめ
no.
166
no.
167
ゲーム依存
no.
168
no.
169
トランスジェンダーとスポーツ
no.
170
no.
171
うつ病患者の家族
no.
172
no.
173
パラスポーツ
no.
174
no.
175
代替肉
no.
176
no.
177
弱いロボット
no.
178
no.
179
戦争継承
no.
180
no.
181
女性の社会参画
no.
182
no.
183
子どもの居場所
no.
184
no.
185
感染症とワクチン
no.
186
no.
187
デジタル社会
no.
188
no.
189
若年女性の生きづらさ
no.
190
no.
191
ゼブラ企業
no.
192
no.
193
多胎児家庭の困難
no.
194
no.
195
ソーシャルイノベーション
no.
196
no.
197
ジェンダー
no.
198
no.
199
毒親
no.
200
no.
201
葬儀
no.
202
no.
203
感染症とワクチン
no.
204
no.
205
子どもの安全
no.
206
no.
207
優生思想
no.
208
no.
209
感染症とワクチン
no.
210
no.
211
障害
no.
212
no.
213
水産資源
no.
214
no.
215
教育格差
no.
216
no.
217
障害と性
no.
218
no.
219
医療
no.
220
no.
221
シングルマザー
no.
222
no.
223
多文化共生
no.
224
no.
225
誹謗中傷
no.
226
no.
227
児童労働
no.
228
no.
229
不登校
no.
230
no.
231
政治
no.
232
no.
233
食料危機
no.
234
no.
235
お金と社会課題
no.
236
no.
237
震災
no.
238
no.
239
まちづくり
no.
240
no.
241
精子提供
no.
242
no.
243
選挙
no.
244
アロマンティンク・アセクシュアル
no.
245
クラウドファンディング
no.
246