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139
入管法
2021/6/9(水) : 2021/6/16(水)まで無料公開
「人権か管理か」の二元論に陥らない議論を――元職員が語る入管の実態(後編)
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「人権か管理か」の二元論に陥らない議論を――元職員が語る入管の実態(後編)
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2021年5月18日、政府・与党が2021年の国会で成立を目指した出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正案は、国連人権理事会から批判された上、野党からの追及を受けた結果、取り下げを余儀なくされた。

 

長期化する収容を是正したい政府と、人道上の配慮を求める立場の意見がぶつかり合っているが、元入管職員の木下洋一さんは、長年現場に立ち続けてきたからこそ、どちらの言い分も理解できると話す。


後編では、それぞれの立場からの目線に加え、当事者の苦しみや入管のあるべき姿について聞いた。

 

※本記事の取材は「リディ部〜社会問題を考えるみんなの部活動〜」で行われた2021/5/20のライブ勉強会「元入管職員が入管法の賛否両論を語る〜行政の一部がブラックボックス?〜」で行われました。リディラバジャーナルの取材の様子は「リディ部」でご覧いただけます。

 

<木下 洋一さん>
現役時代の密やかな自称、「入管のはみだし者」 。大学卒業後、1989年4月、公安調査庁(法務省の外局)入庁。(国家Ⅱ種採用) 2001年、入国管理局(現・出入国在留管理庁)へ異動。以降、2019年3月に退職するまでの18年間、入国審査官として東京局、横浜支局、羽田支局等地方(支)局において、在留審査、上陸審査、違反審判等の業務に従事し、現場から入管行政の内側を見続けてきた。入管行政に対する疑問から、現役職員であった2017年4月、神奈川大学大学院法学研究科に社会人入学。「出入国管理システムにおける行政裁量の統制に関する一考察」で法学修士学位取得。2019年3月、大学院修了と同時に入管局を早期退職。現在、未来入管フォーラム代表。

国と外国人、それぞれに言い分がある

今回、入管法改正案が提出された目的は二つある。難民申請を繰り返している限り不法残留者が日本に留まり続けられる仕組みの見直しと、送還を拒むことで収容が長期に渡る現状の是正だ。

 

収容の長期化が顕在化したのは、五輪を踏まえ、一時的な身柄の解放である「仮放免」の運用を厳格化したことが要因だ。6ヶ月以上に及ぶ「長期収容者」は、2015年の290人から、2019年には462人に増加。これはすべての収容者の約44%に当たる。


改正案では、三回目の難民認定申請が却下された場合に祖国への強制送還を行う制度を盛り込んだ。

 

木下さんは「難民申請中は送還されないということを奇貨として、これを悪用して送還を忌避する外国人への対応策としてのことだと思います。しかし難民申請者側から見れば、日本の難民認定はハードルが高く、本国に帰れば迫害のおそれがあるため、繰り返し難民申請をせざるを得ないということになります」と説明する。

 

相反した二者の主張だが、木下さんはどちらにも一定の理解を示す。
 
「たとえば現状では難民申請中は送還されませんが、難民申請は誰でも可能で、かつ、難民申請は繰り返しすることができます。

 

そのため、国サイドから見ればどんなに悪いことをした人でも難民申請が繰り返される限り、その外国人をいつまでたっても送還することができないという懸念があります。

 

一方、日本は難民認定率が低く(※)、外国人からしてみれば難民申請が適正に認定されないという不満がある。どちらにも言い分はあると思います」

 

※難民申請率の低さの背景にある問題などについては、構造化特集「難民問題」をお読みください
 
木下さんはアメリカで9.11同時テロが勃発した2001年、入管に異動した。

 

「テロリストを入国させてはならない」という思いから、「かつては自分も『外国人は厳しく管理するべき』という気持ちがありました。いまでも、入管行政には一定の厳しさがないとだめだと思っています」と、吐露する。
 
「人権を守るのも大事である一方、入管としては入国管理をするというのも責務です。『人権を取るのか管理を取るのか』という二元論で語りがちですが、両立できるんじゃないかというところから考えてほしい」
 

(写真AC)

罪のない子どもも本国に送還される

入管生活18年を通じて強く印象に残ったのは、「やっぱり子どもの送還のこと」だと木下さんは振り返る。

 
両親が不法滞在状態にあり、生まれながらにビザがない子どもであっても、多くの場合、学校に通っているという。

 

入管法では国・地方公共団体の公務員には不法滞在や不法就労を発見した際の通報義務があるが、木下さんは「学校の先生はまず通報しません。入管法上の規定と実際の教育現場の運用とはまったく異なります」と話す。

 

ただ「日本で生まれ育ち、学校に入って友達と遊び、コミュニティで育まれている子どもでも、何かのきっかけで親のオーバーステイが露見すると、家族全員が退去強制手続に乗せられてしまう」現状があるという。
 
そのことに、木下さんは疑問を投げかける。

「入管法は子どもを保護する規定は一切置かれていません。子どもがある程度大きくなっていると在留特別許可を積極的に付与しますが、小学生くらいだと本国に帰国してもやり直しがきくだろうということで、送還されるケースもけっこうあります。
 
たとえば専門家や医者、教育学者の意見が反映されるのであれば分かりますが、専門的な知識のない入管職員がただ単に印象だけで決めるわけです。

 

もちろん、オーバーステイの親の責任は当然あります。ただ、『この子を本国に帰すことによる国の利益はどこにあるのか』と考えると、私はそこに答えを見出すことができませんでした。入管をやめたきっかけの一つです」
 
また、入管で働く職員に関しては「悩んでいる入管職員は多い。収容・送還に関する専門部会の提言では、離職率の高さも挙げられています」と憂慮する。

 

「僕だっておかしいと思いながら雰囲気に従っていました。おかしいと思ってても、やっぱりそれを口にするのはすごく勇気がいることです。

 

入管はいますごく攻撃されていて、あたかも職員全体がひどい人たちの集まりだという印象を受ける人もいるかもしれませんが、それは違います。入管問題の根源は『人』ではなく、『制度』にあるのです」
 

(写真 木下洋一さん)

外国人抜きには成り立たない日本

戦後から今日に至るまで、入管行政が抜本的に変わらなかった背景には、「多くの日本人の『自分は当事者ではない』という無関心があるかもしれません」と、木下さんは指摘する。
 
ただその上で、「外国人抜きでの生活なんて現代日本ではおおよそ営むことはできません。外国人だけではなく、日本人にだって関わる問題なんです」と主張する。
 
日本には約289万人の外国人が居住する(2020年8月時点)。2015年の国勢調査によると、そのうち外国人を含む夫婦(夫・妻のいずれかまたは両方が外国人である夫婦)は54万5000組となっている。

政府は労働力としての外国人材の活用に力を入れており、コンビニをはじめ日本中の至るところで、働く外国人の姿を目にすることができる。

「伴侶が強制送還されてしまうと、絶望の縁に追い込まれてしまいます。会社に外国人の従業員がいる、学校に留学生がいるという方も多いと思いますが、ビザなんてもろいもので、いつなくなるか分からないんです。身近にいる外国の方が、ちょっとしたことでビザが不許可になってしまうということは大いにあり得るんです」
 
政府・与党は入管法改正案を一旦取り下げはしたものの、木下さんは「現行入管法をそのまま放っておくわけにもいかない」と話す。

 

「僕がずっと言ってるのは『入管行政はブラックボックス。それを少しでも透明化するため、まずは基準を明確化して、行政へのチェック体制を整えるべき』ということだけです。

 

今回、改正入管法の議論が盛り上がり、多くの人が『入管にはいろんな問題がある』と認知し出しました。これは大きなことです。

 

入管は、国民が常にウォッチしていかなくちゃいけない組織です。これまで本当にフリーハンドでやってきましたが、これから慎重に自らを律していくということも期待をしています。問題のある現行法を、少しでもいい方向に変えていくということがいま求められているのです」
 

 

編集長からのメッセージ
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